第13話 side千夏

小鳥ちゃんが白狼さんに連れられエレベーターに入る。

そんな小鳥ちゃんの後ろ姿を、小鳥遊蓮は名残惜しそうに見ていた。


この人、小鳥ちゃんのことが心底好きなんだ。

でも恋人って感じではない。

まさか小鳥遊蓮の片思い?

いや、まさかね。


あの小鳥遊蓮よ?片思いなんてしない。


そもそも、この男は西園寺梨花と結婚すると言われている。


それなのに小鳥ちゃんに惚れてたら大問題よね。


エレベーターの扉が完全に閉まり私と二人きりになった瞬間、小鳥遊蓮の瞳は優しさを無くす。


別に好かれたいとは思わないけどもっと愛想良くしたらどうなの?


なんて、私も人のこと言えないか。


「で、お話って何でしょうか。」


出張の準備しないといけないから手短に言ってほしい。


「小鳥ちゃんにかけられてた魔法だけど、かなり強力にかけられてたって言ってたね。

君ほど腕の立つ魔女なら誰がやったかくらいは検討が付いてるんじゃないの?」


図星だ。

実は数人見当がついている。


「それを知ってあなたはどうなさるおつもりですか?」


私の答えを聞いて小鳥遊蓮は無機質な笑みを浮かべた。


「何もしないよ。ただ、少し話をするくらいかな。」


こんなにも分かりやすい嘘を見た事がない。

あなたの目に書いてあるのよ。

その魔女を見つけたら、思いつく限りの方法で痛ぶっていじめ殺すって。


ここで答えなければ私も殺されるかも。

だからって確信もない魔女の名前をここで言うわけにもいかない。


うまくやらないとね。


「目星はついていますが今は言えません。

この件私に任せてもらえませんか?

誰の仕業か分かった時点であなたに言いますから。」


とりあえず時間を頂戴。

ここで今すぐ答えろ、なんていくらなんでも横暴すぎる。


「いいよ、何か分かれば協会に登録してある番号にかけて。それと、手助けが必要なら教えてね。俺の権力、金、人脈、好きなだけ支援するから。」


私は今この瞬間、切り札のカードを手に入れた。


小鳥遊蓮の権力、お金、人脈、それに勝る相手なんて多分いない。


つまり、見つかりませんでした。なんて死んでも言えないという事。

私はこうして逃げ場を奪い取られた。


先手を打たれたわね。

殺されたらマズい魔女なら見つからなかったと言って逃がそうと思っていたのに。


「ありがとうございます、何かあれば連絡します。」

「うん、待ってるよ。」


小鳥遊蓮の声が聞こえた時にはすでに姿はなく、非常階段の扉が閉まる音がした。

エレベーターを待つ時間も惜しい、そう見受けられる。


小鳥ちゃんが心配で堪らないのね。


尋問部も馬鹿じゃない、小鳥遊蓮が熱を入れている人間だと分かって無理な取調べなんかしないわ。


小鳥遊蓮の怒りを買ったら百害あって一利なし、協会側は損しかしないから。

そしてそれは私も同じ。


謙るなんてまっぴらだけど命は失わないようにしないと。


「はぁ……。」


ストレス溜まるわー。


出張の準備しよ。


そして、魔女の調査も。

とは言っても正直誰かなんてだいたいわかる。


私並に優秀で強い魔力で、魔法自体を隠すのも上手な化け物みたいな相手。

そんなの一人しかいない。


白石咲しらいしさきあの女だ。


白石家の魔女は代々強い事で有名で何世代にも渡り権力を示してきた魔法使いの一族。

そして、大昔からあるヴァンパイア一家に支えているのでも有名だ。


その昔、白石家の当主はあるヴァンパイアに助けられた。


ヴァンパイアの名は、西園寺司さいおんじつかさ


始祖のヴァンパイアの一人で、西園寺梨花の先祖にあたる。

助けられた当時の白石家の当主は西園寺家に忠誠を誓い今この時代までそれを全うしている、と言われている。有名な話だ。


ここで登場人物を整理しよう。

小鳥ちゃんのことが大好きで仕方ない、恐ろしいヴァンパイア小鳥遊蓮。


何も知らずに翻弄されている人間の小鳥ちゃん。


小鳥遊蓮と結婚する可能性が一番高い女ヴァンパイア西園寺梨花と、西園寺家お抱えの魔女。


はい、犯人は誰かわかった。


命令したのは西園寺梨花、魔法をかけたのは白石咲。もう調べなくてもよく分かる。


かなり昔にかけられた魔法みたいだから、もしかしたら子供の頃にかけられたのかも。


小鳥遊蓮、小鳥ちゃん、西園寺梨花、一体どんな関係なの?

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