side小鳥

今すぐに蓮様と触れ合いたかった。

体の一番奥であなたを感じたい。

だけど今はダメだって。

自分を止めるのに必死だった。

気が狂いそうな程、お腹の中がひくついている。


こんなにも欲情したのは初めて。

まるで盛りのついた猫だ。


「蓮様…帰りたい…/////早く帰りたい…/////」


ベッドでしか抱いてくれないなら早く帰って抱かれたい。

1秒でも早く蓮様の女にしてほしい。


「あぁ…、可愛い。泣くほど俺に抱かれたいの?」


そうだよ、蓮様。

早くあなたに抱かれたいの。


私の一番奥が苦しいくらい疼いている。

このままなんて耐えられない。

蓮様の言うように涙が出るほどもどかしい。


キスなら許してくれる?キスならしてもいい?


「蓮様ぁ…////」


さっきはキスさせてくれたよね?

だったら今も…


「…え?」


私がキスをしようとしたら蓮様はそれを阻止するように私の唇に優しく触れた。


「なんで…?」


どうしてキスしたらいけないの?

こんなにシたいのに。


「蓮様、なんて他人行儀な呼び方をする子とキスなんてできないよ。俺は気軽に名前を呼べるくらい仲が良い子じゃないとキスしたくない。」


そっか、そっか…そっか……じゃあ……


「蓮…くん……。」


こう呼べばあなたにキスをしてもいいの?


「………っ。

どうだろう、呼び捨てにしてくれるくらい仲が良かったらキスしたくなるかもね?」


本当に?嘘じゃない?

もうどっちでもいいや…。


「蓮。」


私が蓮と名前を呼んだ瞬間、蓮は嬉しそうに笑って私にキスをしてくれた。

甘くて熱い蕩けるようなキス。

そのキスは私をとことんダメにする。


「はぁ…んっ…んぁっ////」


キスってこんなに心地よい物だった?

こんなに満たされるものだっけ?

私は無意識に蓮様のシャツのボタンを外していた。


「小鳥ちゃん、それはベッドでするんでしょ?」


蓮様は私に優しく言って、私の唇の端にキスをした。


「もう少し待とうね?」

「んー…/////」


もどかしいけど蓮がダメって言うなら我慢しないと。

私はボタンを外すのをやめてコテンと蓮の肩に頭を預けた。


「そう、いい子だね。」


あぁ、もう早くあなたの家に帰りたい。


私が正気を取り戻したのはそれから30分後の事だった。


「/////////」


どうしようどうしようどうしようヤバいヤバいヤバい。

私蓮様のこと呼び捨てにしてたよね?キスしたよね?ボタン外したよね?


完全に痴女だ。


あんな事をしてしまった以上、蓮様に合わせる顔が無い…。

ドッドッドッドッと焦りと恥ずかしさで心音が大変な事になっている。


私は現在進行形で蓮様に跨っているし、ここからどんな顔して前を向いたらいいか分からなかった。


「小鳥ちゃん、そんなに心臓動かしてたら疲れない?」

「っ////////」


あぁぁああ!!!!もう!!!!!


「ごめんなさい…/////////」


とにかく謝らなければ。

あんな醜態を晒すなんて思いもしなかった。


「何で謝るの、可愛かったよ?」 

「///////////」


やだ、もう、絶対に揶揄われてる。


「慰謝料…いくらですか?」

「お金で全部解決するのはよくないよ?」


こんなに死にたくなる日がくるなんて思いもしなかった。


「許してください/////」

「怒ってないよ。」


消えたい、逃げたい、ごめんなさい。

激しい自己嫌悪に襲われていると、コンコンと車の窓をノックする音が聞こえた。


「はぁ…、せっかちな男だよね、本当に。」


車の窓をノックしたのは…


「小鳥、落ち着いたんなら中に行こう。

命があってよかった。」


煌牙だった。


助かった…って言うのが本音だ。

早くこの気まずい空間を抜け出したい。

私は蓮様の顔を見る事なく車の外を見る。


「うん…すぐに、っ!」


腰をグッと引き寄せられて蓮様の唇にキスしそうになった。


「////////」

「連れないね、さっきまでキスしてたのに。」


はい、そうです、本当にごめんなさい。


「あ…あ、あの…私…行かなきゃいけない、ので…////////」


「俺も一緒に行くよ。

小鳥ちゃんが酷い事されないようにね。」


蓮様の一言でふと我に返る。

そうだ、私は出頭命令が出ていてこれから先何をされるかさっぱり分かっていなかった。


「私、何されるんですか?」


まさか暗い部屋で拷問とかされないよね?


「何もされないよ、俺とぴったりくっついてれば。」


そういう事なら恥を忍んでぴったりくっつかせてもらおう。


「そうさせてもらいます、蓮様。」


私がそう言うと蓮様は私をギュッと抱きしめた。


「//////////」

きゃぁぁぁぁあ!!!!!!


何?一体何??何で抱きしめたの!?


「嬉しかったよ、蓮って呼んでくれて。」


切なそうに言わないでよ、蓮様。狡い。


蓮様が車のドアを開けたから真っ赤な顔を隠すようにして外へ出た。

外にはもちろん煌牙が待っていて、すぐに私の首の傷を確認した。


「血は止まってるな。…本当によかった。」


なんて話していると蓮様が車から降りてくる。

さっき私が外したはずの蓮様のシャツのボタンは元通りになっていた。


「大丈夫だよ、煌牙。蓮様は本当に優しい人だから。」


「人じゃない、ヴァンパイアだ。

俺は優しいヴァンパイアなんて見たことない。」


煌牙はそう言いながらかなり大きめの絆創膏を私の首筋にペタッと貼る。


「もちろんその中に小鳥遊蓮も入ってる。」


どうして煌牙はこんなにも蓮様を警戒しているんだろう。

蓮様は本当に紳士的で理性のしっかりしたヴァンパイアなのに。


「聞こえてるよ、そんなに堂々と言われたら傷つくな。」


蓮様がポンッと私の肩に手を置いた。


「庇ってくれてありがとう、小鳥ちゃん。」

「いえ…。」


そんな庇ったなんて大袈裟だ。

私は本当のことを言っているだけだから。


「何を心配しているか知らないけど、全て杞憂だよ。それより早く案内してくれない?

この後用事があるんだ。」


蓮様は煌牙をそっと急かす。


「こっちです。」


煌牙は愛想なく言うと私たちに背を向けて歩き出した。


蓮様、用事って何だろう。

まさか仕事を放り出してまで私について来てくれてる?


「蓮様、何か用事があるなら私に構わず済ませてください、私は大丈夫ですから。」


私が歩きながら蓮様に言うと、蓮様はきょとんとした。


「あぁ、なるほど。ふっ…小鳥ちゃんって面白いよね。」


え?今笑うとこあった?

蓮様って笑いのツボ変だったりするのかな。


「え?え??」


私が戸惑っていると蓮様はさらに笑った。


「まったく、小鳥ちゃんは本当に…。」


えー、本当に何で笑ってるのー????

私は訳がわからないまま蓮様の隣を歩いた。


3人で建物内に入ると如月さんがいた。


「小鳥ちゃん、落ち着いたみたいですね。

体調はどうですか?」


さっきは頭が痛すぎて気付かなかったけど、如月さんはかなりの美人だ。

真っ赤なロングヘアーがよく似合う。


「大丈夫です、本当にありがとうございます。」


この人がいなかったら私は今頃頭が爆発していたかもしれない。


「如月さんだっけ?後で少し聞きたい事があるんだけどいいかな?」


蓮様は如月さんに何か聞きたい事があるらしい。一体何を聞くんだろう。


「質問には答えられる範囲でお答えしますから今すぐに話してもらえませんか?

私、この後出張なんです。」


それにしても如月さんすごいな。

蓮様に媚びたり物怖じしたりしていない。


「そっか…。どうしようかな。」


蓮様は本当に何を聞きたいんだろう。


「心配しなくても俺が付いてるんで小鳥にひどい事はさせません。」

「それが一番心配なんだよね。」


蓮様と煌牙って本当に相性最悪って感じだ。

互いに敵視しているのがよく分かる。


「蓮様、あの…大丈夫です。

如月さんと大切な話があるならしてください。

私は煌牙に付いていきますから。」


なるべく蓮様の足を引っ張らないようにしないと。


「………うん、分かった。

できるだけ早く小鳥ちゃんの所へ行くようにする。何か嫌な事をされそうになったら逃げていいからね。俺が絶対に何とかしてあげる。」


蓮様が指先で私の頬を優しく撫でた。

まるで猫にでもなった気分だ。


「はい…ありがとうございます。」


味方でいてくれるだけで、本当に心強い。

蓮様の権力やヴァンパイアの力とかじゃなくて、蓮様だから心強いんだ。


嫌だな、こんなの。

蓮様のことを考えたら胸の真ん中が温かい。

これは本当によくない兆候よ、蓮様に好感を持たないで。


また勝手に期待して勝手にボロボロになりたくない。

蓮様の優しさに飲まれそうになった私はスッと背筋を伸ばした。

寝ぼけている暇はない、私はこれから事情聴取をされる。


シャキッとしなさい、私。

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