side千夏
小鳥遊蓮を見つけるのは簡単だった。
異常なまでの強者の気配があるから。
それより……
「そちらの女性が救護対象ですか?」
小鳥遊蓮に支えられている小柄な美人。
いや、ちょっと待って、本当に美人さん。
「そうだよ、急に気分が悪くなったみたいだから診てほしい。」
「わかりました。」
彼女の容体を見ようと触れようとした瞬間、小鳥遊蓮がそっと私と彼女の顔の前に手を割り込ませた。
「あの」
「分かっているとは思うけど、彼女におかしな真似をしたら俺が許さない。おかしな魔法をかけたらその時は…。」
私が魔女だと悟って警戒しているのね。
確かにヴァンパイアにとって魔女は天敵だものね。
力やスピード以上の物で対抗できる唯一の存在だから。
「私は魔女ですが医者でもあります。
患者におかしな真似はしません。
それよりその手を退けてくださる?邪魔なので。」
私の発言を聞いた美人はドン引きしていた。
「それは失礼。」
小鳥遊蓮は少し笑って手を退けた。
ここでキレられたら帰ろうと思っていたけど、本気で彼女を診てほしいのね。
この子、小鳥遊蓮の恋人かしら?
「お気遣いどうも。」
私がそう言うと小鳥遊蓮はサッと彼女の隣を空けた。
私がすかさずそこへ入り、仕事を始める。
「私は魔女で医者の如月千夏です。
お名前を教えてください。」
「小鳥!」
名前を答えたのは彼女ではなく、後から来た白狼さんだった。
「大丈夫か!」
全く、これじゃあ診察が進まないわ。
「ちょっと、話なら後でしてください。
それより小鳥ちゃん、症状は?」
小鳥ちゃんは眉間にシワを寄せたまま答えた。
「頭が痛くて……割れそうなんです…。」
相当痛がっているのは確かだ。
病的なものならまずいからまずは頭を診てみないと。
私は魔法を使って病気を特定する事ができる。
それをしようと小鳥ちゃんの頭に触れた瞬間…
「きゃーっ!!」
小鳥ちゃんが悲鳴を上げて座り込んだ。
「小鳥!」
「っ!!!」
それを見た小鳥遊蓮は私の胸ぐらを掴んで小鳥ちゃんから引き離した。
「俺の警告を聞いていなかったのかな?」
小鳥ちゃんには聞こえないくらいの声量で言い放つ小鳥遊蓮、本当に恐ろしい男ね。
この私ですら身震いしそうよ。
「何もしてません、ただ一つわかった事が。
彼女、何か魔法がかけられてますよ。」
私の魔法が完全にブロックされた。
小鳥ちゃんはおそらく強烈な痛みに襲われたはず。
その異常な拒否反応は魔法以外にありえない。
「離してもらえます?
これじゃあ何の魔法がかけられているかすら分かりません。」
私がはっきり言うと小鳥遊蓮はすぐに私を離した。
座り込んで涙を流す小鳥ちゃん。
見たところ、生理的に出てきたっぽい。
調べるにしても相当な痛みを伴うわね。
最悪、途中で気を失うかも。
「白狼さん、小鳥ちゃんはこのおかしな魔法の件でここへ来たんですか?それとも他に理由が?」
それによって対応が変わってくる。
「出頭命令が出てます。」
なるほど…じゃあ気を失ったらまずいわね。
けどこの魔法を解かない限りこの建物には入れない。
強力な魔法をかけられている者が入れないような特殊な結界が張ってあるから。
物理的に入る事はもちろん可能。
でも、魔法をかけられた人が何か用事を済ませてここを出る時には苦痛で精神が壊れているでしょうけど。
「出頭命令が出ているなら仕方ない…
小鳥ちゃんにかかった魔法は何が何でも取ります。かなり痛むけど我慢できますか?」
私は怯える小鳥ちゃんに聞いた。
「は……はい…。」
「出来るだけ早く終わらせますから気をしっかり」「ダメだよ。」
口を挟んだのは小鳥遊蓮だった。
「そんなに苦しいならわざわざやらなくていい。出頭命令だって俺がどうにかする。」
「出頭命令を無視し続ければ強制的に連行されます。そうなれば小鳥ちゃんはこの建物内に無理矢理にでも入れられます。死なないかもしれないけど、死ぬほど苦しませる事になりますよ?
それに、あなただってタダでは済みません。」
こんな状態でこの建物内に引き摺り込まれることを想像しなさいよ。
出頭命令は絶対なの。
出頭命令が取り消された事案なんてないわ。
「やってください、騒いでごめんなさい。
私は大丈夫ですから。」
私たちが一歩も譲らない中、小鳥ちゃんが力強く私に告げた。
「小鳥ちゃん、無理しなくていいよ。
痛みを与えない魔女を俺が探すから。」
ヴァンパイアの瞳に慈しみがあるなんて初めて知った。
私が見るヴァンパイアは大抵、殺意に満ちた者ばかりだから。
「その魔法は誰が解くにしても痛みを伴います。
言っておきますけど、その辺の魔女になんかやらせたら目も当てられませんよ?
私は優秀だから数分いただければ解けます。」
そう、私は優秀よ。
自分の腕に自信があるしそれに見合う努力だってしてした。
「数分なんて長すぎる。
あの一瞬だって叫び声を上げる程苦しんでいたのに冗談じゃないよ。眠らせるとか、麻酔とか、何でもいいから………」
小鳥遊蓮は何か思いついたらしく小鳥ちゃんをじっと見つめた。
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