side小鳥

蓮様の様子がおかしい。

ずっと微動だにせず少しだけ息が荒い。


「蓮様?」


私が一歩離れようとしたら…

「っ!!」


物凄い力で腰を抱かれて引き寄せられた。


抵抗のしようのない圧倒的な力差に怯まなかったと言えば嘘になる。


蓮様に腰を抱かれた事で私の足は宙ぶらりん、蓮様の唇が首筋に少し触れた瞬間、蓮様の求めているものが分かった。


それは、私の中に流れるハニーブラッドだ。


「蓮様っ…/////」


無様に上擦った声が静かな部屋に響いた。


「蓮様っ…お…落ち着いて////」


こんな大パニックで上がりまくってる私に言われても何の説得力もないだろうけど。


「蓮様っ…//////」


正直、少し怖かった。

私はこう見えてヴァンパイアに一度も噛まれた事がない。必死に自分を守ってきた。


ハニーブラッドは、誘拐されたり、殺されたり長生きできない人が多いから。

もしかしたら今も私は死の淵に立たされているのかもしれない。


蓮様から逃げれるわけもなく、せめて痛くないように頑張って力を抜こうとした。

もちろん、抜けなかったけどね。


そんな私を見かねてか、蓮様がため息を吐き、コトンと私の肩に額を置いた。


「あぁ………、本当にごめんね。怖がらないで。」


私の腰を抱いていた腕は解かれて、蓮様に優しく抱擁され私はさらに心臓の鼓動を上げる事になる。


こんな時にそんな弱った声で囁くなんて狡いよ、蓮様。


「蓮様……。

あの……私、実は誰にも噛まれた事がないんです。こんな事言うと変かもしれないけど…

初めて咬まれるなら蓮様がいいなぁ/////なんて…//////」 


私は正気を失ったの?

いくらパニクったからって何を言ってるのよ。

自分がすごくいやらしいことを言ったみたいで恥ずかしくなった。


「欲しい、小鳥ちゃんの初めて。」


そんな私に追い打ちをかけるように蓮様が私の目を見て言った。

真紅の瞳に飲み込まれそうになる。

なんて綺麗なんだろう。


「ココ、俺に咬ませて?

他の奴が小鳥ちゃんを咬むなんてありえない、俺にちょうだい?」


蓮様に首筋を触られて心臓が変な動きをした。


お願い、蓮様。

そんな整った顔で私に懇願しないで、本当に心臓に悪い。


「も…、もちろん、いつかは蓮様にあげます。

でも今はちょっとまずくないですか?

ほら、私ハンター協会に呼び出されてるし……。」


ヴァンパイアハンターが多くいる組織に、首にテープを貼って登場って言うのはいただけない。


ヴァンパイアの中でも理性的な蓮様の評判に泥を塗ることになる。


「小鳥ちゃん、逃げるの上手だね。」


蓮様はすでに理性を取り戻していた。


「に…逃げてません!今はダメって事です!」


私が必死に弁明したら蓮様はくすくす笑った。


「そうだね、今はダメだね。

今は、ね。」


蓮様がいつもの笑顔を見せた瞬間、赤い瞳から狂気は消えた。


「子供の頃のこと覚えてる?

小鳥ちゃんはあの時も逃げるのが上手だった。」


え???何?


「何の話ですか?」


本当にわからなくて聞き返すと蓮様は私の左手を握る。


「俺が怪我をさせてしまった後、プロポーズしたでしょ?覚えてない?」


ふと記憶が蘇った。

確かにそんなことを言われた。


あれは一ヶ月間、蓮様と一緒に過ごして私が家に帰る日だった。


私が最も消したい記憶の一つ。


今まで上手に忘れていたのに、この人は残酷にもあの幸せな光景を思い出させる。

私が一番幸せだったあの時を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る