side蓮
煌牙?
たった数回会っただけの男を名前呼び?
俺は小鳥ちゃんと何年も一緒にいたのに、様をつけられてる。
蓮様、なんて呼び方しなくていいって言ったのにそれなのにどうして…俺はいつまでもこんな酷い呼び方されてるの?
好きでもない男は呼び捨てにする価値もないのかな?後なんて言った?
アイツに守ってもらうって?
俺の方が強いのに?
「彼に小鳥ちゃんは守りきれないよ。
それに、小鳥ちゃんを守るのは俺の役目だから。」
このまま小鳥ちゃんを取られたくない、他の男の物になんか絶対にさせない。
「蓮様、その役目ですけど本当にもう大丈夫です。私はこの傷で困ったことはありませんから。」
小鳥ちゃんは自身の胸元をそっと撫でた。
「だから、私を守るとか責任を取るとかそんなの一切考えないでください。」
どうして小鳥ちゃんがここまで頑なに拒否をするのか、それは小鳥ちゃんにとってこの関係が都合が悪いからだ。
近くに俺がいると都合が悪い。
それはそうだろう、誤解されかねないよね。
ただならぬ関係だって、俺は血まであげたんだから。
こうなったら手段なんて選んでいる場合じゃない、ぬるすぎたよね、こんなの。
小鳥ちゃんを他の男の物にしたくないのなら俺が独占すればいい。
得意な嘘をいくつもついて外堀を埋めていけばいいんだ。
とりあえず、住む場所を奪おうか。
住む場所がなくなってしまえば俺に助けを求めるしかなくなるよね?
そうなれば後はもうこっちのもの。
いろんな手を使って小鳥ちゃんを翻弄して俺から離れられないようにしてやる。
「俺は小鳥ちゃんが何と言おうが自分のした事の責任を取るよ。男ってそう言う生き物でしょ?」
「そんな事ありません。誰かに見られたらどうするんですか!蓮様は有名人だし変な記者とかに写真を撮られたら本当に大変なことになりますよ?家に連れ込んだのが西園寺様じゃなくてこんな人間のちんちくりんだって知られたら!」
人間のちんちくりんだって?
小鳥ちゃんが?
「そうなればきっと有名になるね。
人間の美女を連れ込んだって。」
「まっ…真面目に聞いてください!蓮様!」
真面目に聞いてるし、真面目に言ってるよ。
小鳥ちゃんは誰よりも綺麗だし可愛いし欠点がない、完璧な女性なのに。
「俺がふざけているように見える?」
「見えます…!私を揶揄わないでください!」
本当…小鳥ちゃんは何も分かってない。
「傷つくな、本気で口説いてるのに。」
「信じません…そんな事。」
それ以降、俺たちは車内の中で話すことはなかった。
白狼の家と俺のマンションは車で30分の距離だった。
小鳥ちゃんは俺のマンションの駐車場に入ったら明らかに動揺して心音を上げる。
「蓮様…。」
やっと話してくれた、よかった。
「何?」
可愛い声、小鳥ちゃんは全部完璧だ。
「蓮様のお部屋には行けません…。」
「車中泊はあまりおすすめしないよ?」
俺がそう言うと小鳥ちゃんはもどかしそうに言った。
「はぐらかさないでください!
私は蓮様と一緒にいるわけにはいかないんです!」
どうして?何で?誰がそんな事言ったの?
「一緒にいていいに決まってる。
本来なら、小鳥ちゃんは俺の専属の使用人になってくれるはずだったんだから。」
もうずっと前の話だけど、本来はそうなるはずだった。
「そ…そんな前の話を持ち出されても困ります!私はもう小鳥遊家の使用人じゃありません。」
そうだね、もう違うよね。
そもそも、使用人として側に置いておく気なんて微塵もなかったよ。
昔も、今も。
「それと…誰かに仕えるなんて私には向いていません。私は両親のように優秀じゃありませんから。」
このままでは埒があかない。
ずっとここで粘ってもいいけど、時間が経てば経つほど俺が不利になるね。
「ねぇ、小鳥ちゃん。
何も聞かずに俺の部屋に入ってくれない?
刺客がいるみたい。」
「え!?刺客!?」
まぁ、嘘なんだけどね。
「うん、部屋の方が安全だから一緒に来てくれるとありがたいよ。」
「…分かりました、行きます。」
ごめんね、騙すような真似をして。
だけど俺は小鳥ちゃんを手に入れるためならどんな嘘でもつくし卑怯な手だって使う。
だからと言ってこの本性を小鳥ちゃんに見せるわけじゃない。
獣は獣でも、大人しい獣のフリをしないと。
人間は恐怖に弱い。
とにかくその感情だけは与えないようにしないと。
小鳥ちゃんよりも早く車から降りて助手席のドアを開けた。
「部屋まで手を繋いで行こう?その方が守りやすい。」
俺が手を差し出せば不安気に小さな手が伸びてくる。
小鳥ちゃんは俺といる時ずっと戸惑っているように見えた。
戸惑う必要なんてないのにね。
俺は何か嘘をつかないと小鳥ちゃんと手を繋げない。
小鳥ちゃんは別の男が好きだから。
たまに心底憎らしくなる。
俺はずっとずっと小鳥ちゃんのことが好きなのに。
「あ…あのっ…、痛いです、蓮様。」
「あぁ、ごめんね。
少し力みすぎた、小鳥ちゃんを絶対守りたいからかな?」
俺が笑って見せたら小鳥ちゃんは綺麗な笑みを可愛い顔に浮かべた。
「蓮様も力む事あるんですね、意外です。」
「もちろんあるよ、大事な瞬間は俺だって緊張するよ?今まさにそう。」
ここまではっきり言っても…
「蓮様、上手ですね。」
小鳥ちゃんは俺の言葉を冗談として流す。
小鳥ちゃんは少しも考えた事ないの?
目の前の化け物が心底小鳥ちゃんに惚れてる、って。
「本当の事だよ。
俺にとって小鳥ちゃんは特別な人だからね。」
「//////////」
酷いよ、小鳥ちゃん。
そんなに可愛い顔して真っ赤になるなら俺のこと好きになってくれたらいいのに。
もどかしく思いながらも小鳥ちゃんとエレベーターに乗り、最上階の俺の部屋を目指した。
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