第9話 side小鳥

「煌牙、帰らないと。」


蓮様を外で長い間待たせるなんてできない。


「あぁ、聞こえてた。人狼は聴力もいいからな。俺が送らなくて平気か?言いにくいなら俺が言ってきてやる。」


そんな恐ろしい事よく提案できるよね。

煌牙は肝が座りすぎてて逆に怖いよ。


「大丈夫だよ、蓮様に聞きたいこともあるし。」


なんでハンター協会にいたの?とか、私のせい?とか。


「本当に?無理してないか?」


煌牙、あなたは本当にハンターに向いてる。

仕事だからって、普通ここまで守ろうとはしてくれない。




「うん、本当に。それより、片付けもロクにしないでごめんね?ご飯もたくさん食べちゃったし…今度お礼させて?」


私がそう言うと煌牙が少し笑った。


「お礼はいらない、仕事だからな。

でも、また会ってくれるなら喜んで会う。」


会ってくれるなら、って。


そんなの…


「会うよ!もちろん会う。」


煌牙は私の言葉を聞いて、少し目を逸らして笑う。


「楽しみにしてる。」


なんだかその振る舞いが私の目には可愛く映った。


その後、自分の持ち物を持ち片付けもしていないことを再度、何度も謝って玄関から外へ出た。

ちなみに、さっきここのドアが開かなかったのは煌牙の指紋が必要だったからだそう。

指紋認証のドアだなんてハイテクすぎる。


煌牙が私の住んでいるボロアパートを見たら卒倒するだろうな。

そんな事を考えていたらふと前髪が風で揺れた。


「小鳥ちゃん。」


目の前には心配そうに私を見つめる蓮様がいた。


「蓮様…。」


見つめ合っている場合じゃない。

蓮様に聞かないといけない事があるんだった。


「ハンター協会に捕まっていたって本当ですか?私のせいですか?」


もしもそうなら罪悪感に潰されてしまいそう。


「小鳥ちゃんのせいじゃないよ。

書類を書かないといけなかったんだ。

言い方が悪かったね、ごめんね?」


蓮様はそう言って私の頬に触れた。


「続きは車で話そうか。」


蓮様が隣に来て優しく私の腰に手を添える。

こんな上品にエスコートされたら自分がお姫様なんじゃないかと錯覚してしまう。


蓮様は育ちがいいからきっと誰にでもスマートにこうできるのよね。

私だけじゃない、あまり舞い上がっちゃダメよ。


蓮様が案内してくれた車は何の車種かは知らないけど、黒の高級車ってことは分かった。


さすがは御曹司の車ね。


「どうぞ。」

「ありがとうございます。」


蓮様は何の躊躇もなく私を助手席に座らせた。

外はピカピカだし中も綺麗だしいい匂いする。

the大金持ちの車だ。


どうやら今日は蓮様が運転をするらしい。

免許あったんだ…。


一度車に乗った時、運転手さんがいたから持ってないかと思ってた。


「とりあえず、俺の家に行こうか。」


え!!?


「い、いえ!自分の家に帰ります!」


私が慌てて言うと蓮様は車を出した。


「あのアパートには帰せないよ。

セキュリティ面がちょっとね。」


蓮様は爽やかに私の住んでるボロアパートを非難する。


「だ…大丈夫です!

あぁ見えて鍵もチェーンもあります!」


ボロボロだけども、古いけども!!


「俺たちヴァンパイアや人狼からしたらあんなのないのに等しいよ。もしもそんな連中に捕まったらロクな死に方はしないだろうね。」


蓮様、少し冷たい気がする。


「そんな怖い事…言わないでください。」


蓮様はきっと怒ってるんだ。

私に血をあげたばっかりにハンター協会に行く羽目になったから。


だったら初めから私のことなんて放っておけばよかったのに。


「事実だよ。」


ほら、やっぱり冷たい。


「蓮様にもうご迷惑はかけません。

だから、私をあのアパートに帰してください。

煌牙とも連絡先を交換したので何かあっても大丈夫です。」


いっその事切り捨ててよ、邪魔なら邪魔と言って。

私はちゃんと受け入れるし、蓮様の前に二度と現れないから。

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