side小鳥
朝起きて隣を見ると煌牙はいなかった。
昨日はピッタリくっついて眠ったはずだけど、いつの間にいなくなってしまったんだろう。
とりあえず、顔を洗って身支度をしようかな。
こんな寝起きのボロボロの姿を晒すのは流石に恥ずかしい。
煌牙はどこへ行ったか知らないけど戻ってくる様子はないから勝手に洗面台を使わせてもらった。
これは余談だけど、こう言った保護の案件もあるから歯ブラシやその他の消耗品は常にストックがあるらしい。ハンターもいろいろ大変だ。
寝室にスマホを取りに行き、その後リビングに行ったけどやっぱり煌牙はいない。
正直なところ、一人では不安だった。
不安が募る中でも、素晴らしいことにお腹は空く。
煌牙はここにあるものは勝手に食べていいとの事だったけど流石に気が引ける。
と言う事で、このどすっぴんでコンビニに行く事にした。
スマホでこの場所を調べたら近くにコンビニが何軒かある。
今の時間なら明るいし誰も襲っては来ないはずよ。財布とスマホだけを持ち出かけようと玄関を開け……
「あれ?」
気のせいよね?もう一回開け…
「んん???」
開かない。
え?何で?どうして玄関のドアが開かないの?
「???」
私が散々戸惑っていると…
「俺の指紋」
「きゃあっ!!!!」
突然、後ろから声がした。
この家には誰もいないと思っていたから私はもちろんのこと、恐怖のどん底へ落とされる。
一瞬でパニックになった頭と体。
気が付いたらその場に座り込んで情けない顔をしていた。
「……わ、悪い。驚かせるつもりはなかった、大丈夫か?」
声の主は煌牙で、驚いた私を見て引いた様子で聞いてくる。
本当にびっくりした、死ぬかと思った。
「だ…大丈夫………はぁ…びっくりしたぁぁあ…。」
心臓が飛び出てきそう。
私の心臓ってこんなに早く動くんだ…。
「ベランダで電話してたんだ、メモでも置いとけばよかったな。」
煌牙は優しく笑って私に手を差し伸べてくれた。もちろん、腰が抜けた私はその手を取り何とか立ち上がる。
「腹減ってないか?
目玉焼きなら完璧に焼ける。」
朝に目玉焼きって最高。
休みの日しか朝ごはんは食べないから嬉しいな。
「目玉焼き、食べたい。」
私が正直に言うと煌牙は少年のように笑う。
「よし、任せろ。米でいいか?」
パンでもご飯でも麺でも何でもいい、作ってくれるのなら。
「うん!お願いします!」
とにかく私はルンルンだった。
自分以外の誰かにご飯を作ってもらう事が本当に嬉しかった。
言葉通り、朝ごはんを作ってもらい目玉焼きを焼いてもらった。
そしてその目玉焼きは今まで食べてきた中で一番美味しいと言っても過言ではない。
程よい半熟加減の黄身にトロッとした甘口醤油をかけてon the炊き立ての白米。
トッピングにカツオをかけて、ウインナーまで追加してくれた。
つまり……
「最高っ〜///////」
美味しい〜!!!!!!
もう体型とか言ってられない、今食べなきゃ一生後悔する!!!
そう思った私は図々しくも2杯もご飯を食べて幸せに浸っていた。
私が本能のままご飯を食べている姿を見て、煌牙は優しい目をして見ていてくれた。
そこでふと思い出す子供時代。
私は昔から食べる事が大好きだった。
そして、そんな私を蓮様もこうして見守っていてくれた。
私の好きなものを自身の皿から取り私の皿に入れてくれる優しい人だった。
食べ物をくれるから好きだったんじゃない。
その思いやりが大好きだった。
「小鳥、準備できたけど大丈夫か?」
考え事はやめよう、いくら私が昔を懐かしんでもあの蓮様にはもう会えないのよ。
私は蓮様やその家族に見捨てられた身。
あんな日常は二度と戻ってこない。
「うん、準備できたよ!」
私は現実を生きないと。
まずは逃避したい現実からクリアする。
そう、血液検査だ。
何やら煌牙の家には検査キットがあるらしい。
血を数的そのキットに垂らせば、ヴァンパイアの血が抜けているかどうか分かるそうだ。
注射器とかで血を抜くのかと思っていたけど…
「手、貸して。」
煌牙はニードルのようなものを持って大きな手を差し出していた。
「じ…自分でやりたい…。」
針を刺されるなんてどっちにしろ痛いんだろうけど、自分でやった方がまだマシな気がする。
「ハンターがやる決まりだからダメだ、ほら。
すぐ終わらせてやる。」
そうよね、そりゃそうよね!
ここでごねても仕方ない。
痛いかもだけど、頑張ろう。
手を差し出すと、私の手の甲を包むように優しく持ってくれる。
「大丈夫だから、リラックス。」
そうよね、大丈夫だよね。
私は体の力を抜くために深呼吸をした。
煌牙は私のことをよく見てくれていて、少し落ち着いたかな?と言う瞬間に私の人差し指にニードルをプツッと指した。
「っ!!」
ニードルを指から離した瞬間血が出てきた。
じわじわ血が滲んで指から溢れそうになった時、煌牙は私の指の腹をキットの方に向けさせる。
ポタッ…ポタッ…と血はキットに落ち検査が開始された。この検査は1分で分かるらしい。
結果は………
「陰性。」
陰性って事は、蓮様の血は私の中にもうないってことよね?
「飲んだ量が少なかったから数時間で排出されたんだな、よかった。」
煌牙は安心したように言った。
「これでもう、誰かに狙われることはない?」
肯定の意見が欲しかった。
もう大丈夫だって言われたら安心できる。
「それはもう無理だろうな。
小鳥遊蓮が誰かに血を分けたのは、俺が聞く中では初めてだ。今回の事で、小鳥は小鳥遊蓮が唯一血を与えた人間として有名人になるだろう。ほとぼりが覚めるまでは一人にならない方がいい。」
そんな………
「これで終わり、じゃないんだ…。」
「大丈夫、そう暗い顔するな。
申請すれば俺をボディガードにすることも出来る。」
ハンターを専属のボディーガードに?
私にそんなお金はない。
借金問題もあるし絶対に無理よ。
「申請はしないよ。
きっと大丈夫、蓮様の血がない私なんて誰も興味を持たないはずだし。」
私が不安気に言うと煌牙が少し微笑んだ。
「心配なら何日間かここにいるか?
ここにいればおかしな連中から守ってやれる。」
いやいやいや、そんな迷惑かけられるわけないでしょ…。
「そこまでしなくて大丈夫だよ。
とりあえず、一人にならないようにする。」
私がそう言うと、煌牙はスマホをポケットから取り出した。
「連絡先交換しとくぞ。何かあった時のために。」
何かある、そんな想定したくない。
「小鳥、念のためだ。」
私の心を読んだかのように煌牙が付け加えた。
「うん…そうだよね、念の為だよね。」
何か起こるわけない。
今まで散々苦労したんだもん、ここまできて知らない不特定多数に命を狙われる事なんてありえない。
そこまで自分の運が悪いとは思いたくないわ。
私もスマホを取り出し言われるがまま煌牙と連絡先を交換した。
「いつでも遠慮なくかけてくれ。」
そんなに暇じゃないでしょうに、気を遣わせて悪いわ。
「ありがとう、煌牙。」
連絡先を交換し終わった瞬間スマホの画面に表示される、小鳥遊蓮という名前。
私と煌牙はそれを見て固まった。
「……いきなり大物出てきたな。」
「一体何だろう…。」
少し緊張しながら蓮様の電話に出た。
「はい…。」
「おはよう、小鳥ちゃん。」
優しい声が私の名前を呼んだ瞬間、心臓がキュッと切なくなる。
「おはようございます、蓮様…。」
「今ね、ハンター協会からようやく解放されたから小鳥ちゃんを迎えに来たんだ。
一緒に帰ろう、外で待ってるね。」
え!?外で待ってる!?
「蓮さ」プツ。
あ……切れちゃった…。
て言うかハンター協会から解放されたって言ってたよね!?
まさか私のせいで捕まってたってこと!?
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