第8話 side煌牙
風呂から上がり半裸で頭を拭きながら、まだ都合のいい夢を見ているんだと思った。
まさか、会えるなんて思ってもいなかったから。ガキの頃に一瞬で虜になったあの子。
その子が大人になって、もっと綺麗になって、今は俺のベッドで寝てる。
今は23時、意外と早寝する生活らしい。
スースーよく寝てる。
「…可愛い。」
寝顔はほんの少しだけ幼くなるんだな。
カタッ……。
「はぁ……。」
寝顔に癒されてる暇もない。
外に三人いるな、匂いからしてヴァンパイアだ。正気か?
ここはハンターの家だぞ。
それにしても最悪だ、せっかく風呂に入ったのにまた入る羽目になりそうだ。
よく寝ているから起こさないようにしないとな。
さて…
「
〜10分後〜
ポタッ…ポタッ…
俺の家の庭に転がる三人の死体。
心臓を抜き取ったからかなり血に塗れる事になった。
こうなる事は分かっていただろうに、そこまでして始祖の血が欲しいのか。
とんでもない執着だな。
とりあえず協会に連絡して死体を片付けさせるか。
小鳥が起きる前に終わらせておかないと。
この家から出る時に死体を跨いで帰りたくはないだろうからな。
スマホからハンター協会の掃除係に電話した。
「はい。」
掃除係はすぐに出る。
「ヴァンパイアの死体をそっちに運んでほしい。場所は後でメッセージに送る。
すぐ動ける奴ら三人連れてやってくれ。
ちなみに死体は三人だ。どこの誰か分かったらすぐに知らせてくれ。」
「わかりました、失礼します。」
電話を切ってふと下を見ると、瞳孔の開き切った瞳と目が合う。
このまま野晒しにするわけにもいかず、倉庫からブルーシートを取り、死体にかけて家に入った。
床を汚すのは嫌だったが仕方ない。
今度はレインコートか何か着てやるか、外で脱げば掃除もしなくて済む。
なんて考えながら風呂場へ向かっていると…
「きゃっ!!!!!」
ばったり、小鳥と鉢合わせた。
小鳥はスマホのライトを頼りにここまで歩いてきたらしい。
「血っ…!血が…!こんなに…!!!大丈夫!?」
かなり慌てた様子だった。
血まみれの男なんてなかなか見ないから驚いたんだろうな。
「俺は無傷だ。これは………その……。」
心臓を抜き取った奴の返り血だ、なんて言えなかった。
「…誰か襲ってきたの?」
ここで嘘をついても仕方ないよな。
「まぁ、そんな所。」
こんな真面目な話をしているのに俺は嬉しかった。
今日、いろいろ話をして互いに少し仲良くなって敬語が取れた。
「無事でよかったよ、煌牙。」
名前呼びも数時間前と比べてぎこちなさはなくなった。
「俺のことは心配しなくていい。
それより風呂に入ってきていいか?」
もっと話したいけど、こんな血まみれじゃまずいよな。
「も、もちろん、煌牙の家なんだから。」
小鳥は少し落ち着きを取り戻したように見えた。
「あぁ、そうだな。
俺が風呂にいる間は寝室にいてくれ、何かあったらすぐに行くから。」
俺がそう言うと小鳥は安心したように頷く。
「ありがとう。あ、でもちょっと待って!
喉が渇いたから何か飲んでいい?
それを聞こうとしてここまで来たの。」
水でわざわざ探しに来たのか、勝手に冷蔵庫開けて飲めばいいのに。
「いいに決まってるだろ、この家にあるものは何でも飲んでいいし食っていい。」
俺がそう言うと小鳥は嬉しそうに笑い礼を言った。
風呂に入り、血を流してさっぱりして寝室に戻ると小鳥は眠れないのかスマホを触っていた。
「眠れないか?」
俺が聞くと小鳥は頷いた。
「ちょっと目が覚めちゃって。」
もしかしたら、怖くて眠れなかったのかもしれない。
「そうか、まぁ横になってればそのうち眠くなるだろう。ほら、詰めてくれ。」
「え?」
俺がベッドに入ると小鳥はキョトンとする。
「この距離にいないと何かあった時守れないだろ?さっきみたいなへなちょこなら問題ないが、魔女や魔法使いはここまで入ってくるかもしれない。」
俺がそう言うと小鳥は俺の腕を強めに掴んで言った。
「よろしくね!ぴったり隣にいてね!」
「あぁ、喜んで。」
まぁ、この寝室には対魔法の結界張ってあるから魔法使い系が入ってきたとしても何も出来ないけどな。それは言わなくていいか。
ぴったりくっついていると小鳥はうとうとし始めた。
俺がいることによって少しは安心できたらしい。初対面で同じベッドに入るなんてな。
まぁ、そこにいやらしさがないのが残念だがいきなりがっつく程飢えてもない。
恋愛も人並みにしてきた。
全部、適当に終わったけどいい経験にはなった。その経験が今生かされてる。
童貞だったら嘘をついてまで同じベッドで寝る度胸はなかったはずだ。
ふと、俺の腕を掴む小鳥の手の力が抜けた。
スースー寝息も聞こえるしようやく眠れたらしい。
俺も仮眠を取ろうかと目を閉じると、外で血の匂いと強いヴァンパイアの気配がした。
これは無視できないな。
それに、この気配は誰だか見当がついてる。
寝室の窓から庭に飛び降りた。
そこには…
「こんばんは。」
知らない女の首を持った小鳥遊蓮がいた。
「何ですか、それ。」
俺が聞くと、小鳥遊蓮はその首をそっと地面に置いた。
「この家に入ろうとしていた魔女。
お礼はいらないよ、小鳥ちゃんのためにやったことだから。」
もちろんそんな事は分かってる。
だが…
「帰ってください、小鳥は今寝てるしまだあなたの血も」「昼間も思ったんだけどね?」
小鳥遊蓮の雰囲気がガラリと変わった。
さっきまで必死に隠していたであろう殺気が肌に突き刺さるように感じられた。
「俺の前で小鳥ちゃんのこと気安く呼ぶなんて随分と度胸があるんだね。」
小鳥遊蓮はそう言うと俺の目の前に一瞬で現れて、トンッと俺の肩に手を置いた。
「それとも、首を引っこ抜かれたいのかな?
あの魔女みたいに。」
これは大事件だな、怒らせたらしい。
「俺が死ねばハンター協会の手練れが何人も押し寄せて小鳥…っ…!」
小鳥の名前を呼んだ瞬間、肩に置かれた手に信じられないくらいの力が入った。肩にヒビが入ったのは確実だ。
「ここ、ハンター協会の監視カメラ付いてるんですよ。だからここで俺を殺したら後日、ハンター協会から話が伝わりますよ?"小鳥"に。」
小鳥遊蓮の瞳には殺意しかなかった。
「じゃあ俺はハンター協会にこう言おうかな。
人肉に飢えた獣がいたから危険を感じて処分した、って。実際、いろんな意味で飢えてそうだしね?」
コイツ…。
「お……お取り込み中失礼します。」
俺たちの会話に割って入ってきたのは、先ほど連絡したハンター協会の掃除係だった。
この短時間で来たってことは魔法で飛ばされてきたんだろうな。
「そ…掃除対象は三人と聞いていたんですが……。」
随分と気弱そうな男が来たな。
歳は俺よりもはるかに上だ。
「小鳥遊様がやったので一人追加になりました、いけますか?」
俺がそう聞くと掃除係の男は何度か頷いた。
「は…はい、大丈夫です…。
ただ……その……小鳥遊様には協会までご同行していただく必要があります。一応…殺人になりますので………。こ、こんな状況ですしせ、正当防衛だとは思いますが、一応、かかか書くものがありますのでっ…!」
小鳥遊蓮が怖いんだろう、掃除係の心臓がはち切れそうで少し心配だった。
小鳥遊蓮は一瞬何か考えたように思えた。
俺は少し拳を握る、何かするようなら俺も黙ってやられるわけにはいかないからな。
「分かった、ついて行くよ。
ハンター協会に行けばいいんだね?」
意外とあっさりで拍子抜けする。一体何を考えているんだ?
「は…はい…。」
「俺は行くけど、小鳥ちゃんにおかしな真似をしたら…分かってるよね?」
小鳥に何かしなくてもどうせ殺す気だろ、俺のこと。
「その人困ってるんで早く行ったらどうですか?」
俺がそう言うと小鳥遊蓮は無言で俺の肩から手を離し、心臓がはち切れそうな掃除係と夜の闇に消えて行った。
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