side小鳥

蓮様があっさりと私を離したから、私はすぐに初対面の彼の元へ向かった。

堅物かと思ったけど意外とノリがいいのね。


「向こうに車があるからそれで行こう、案内する。」


ノリノリで知り合いのふりをしてくれているわ。


「ありがとうございます。」


だから私もノリノリで返した。

これで蓮様も私への責任感を感じなくて済む。


私が恋愛を楽しんでいる姿を見せればきっと蓮様の中の罪悪感も薄れるよね。


路地を白狼さんと曲がる時、少し振り返り蓮様を見た。


綺麗な赤い瞳に囚われそうになったけど、私はなんとかその視線を振り切り蓮様の前から姿を消した。


車があると言っていた白狼さん。

その車とは、山とか登れそうな大きな車だ。


私の思っていた車と違う、ハンターと言っていたからもっと社用車っぽいのかと思ってた。


「運転席の後ろに座って、一番安全だから。」

「ありがとうございます。」


この人、私に何も聞いて来ないのね。

懐が広いのか、この状況に全く興味がないのかどちらだろう。


そう思いながら言われた席に座り、ドアを閉める。

白狼さんが運転席に乗り込みドアを閉めた瞬間…


「初めまして、俺は白狼煌牙はくろうこうがです。一宮小鳥さん、ですよね?」


白狼さんは振り返り私に自己紹介してきた。


「は…はい、一宮小鳥です。あの、ありがとうございます。私のいきなりな思い付きに対応してくれて。」


「これも仕事ですから、お礼なんていりません。」


彼は振り返ったままボーッと私を見つめている。


「あの…/////」


そんなに人に見つめられる事がないから普通に恥ずかしい。


「あ…すみません。大人になっても綺麗だから、つい。」

「!!?」


「え?あ、えっと…、子供の頃、会ったことありましたか?」


私が聞くと白狼さんは少し照れたように目を伏せた。


「会った、と言うよりかは俺が勝手に小鳥さんを見つけてました。」


小鳥さん!?名前呼びな感じね!


「一目惚れしたんですよ、ガキのくせに。

小さい頃から小鳥さんは綺麗だったから。

気持ち悪いかもしれませんけど何もしないんで怖がらないでくださいね。」


この人、何もかも包み隠さずに言うタイプだろうか。


「そ、そんな、気持ち悪いだなんて思いませんよ!子供の頃の話でしょう?誰にでも初恋はありますから。それに、過去の話なんだから私は気にしませんよ!」


「それはどうでしょう。

子供の頃、過去の話、そう決めつけて大丈夫ですか?」


ん?ん?ん?

私が戸惑っていると白狼さんは笑った。


「冗談です、本当に怖がらないで。

俺は小鳥さんを守りに来ただけですから。」


冗談とか言うんだ、この人。

てっきり堅物の馬鹿正直な人だと思っていた。


「そ….そうですよね、ありが」

「まぁ、表向きは。」


ん!?


「え?」

「冗談です。」


もう!何なの!


白狼さんは正直掴めない、どこまで本気で言っているか分からないからだ。

でも、白狼さんの冗談攻撃で緊張がパッと解けたのも事実だ。

車の中で白狼さんと話が尽きることはなかった。

と言うより、白狼さんが私の質問にちゃんと答えてくれる。


今だってそう。


「始祖の一族の血を飲んだ人を毎回こうして保護してるんですか?」


「はい、100%遺体で見つかりますから。」


ゾッとするような答えでも簡単に返ってきた。

私が今更ながら真っ青になっていると、白狼さんが少し笑う。


「俺がいるから大丈夫ですよ。

ちゃんと守ります。」


ハンターに言われると本当に心強い。


「俺も聞いていいですか?」


私ばかり質問していても仕方ない、白狼さんの質問にもちゃんと答えないとね。


「はい、もちろん。」


私が答えたら白狼さんは容赦なく聞いてきた。


「小鳥遊蓮との関係は?恋人ですか?遊びですか?」


「恋人でもなんでもありません。

私なんて遊びにすらならない女ですよ。」


蓮様からしたら私なんて罪悪感の欠片に過ぎない。


「本当に?そんなに美人なら小鳥遊蓮も放っておかないと思いますよ?もちろん俺も。」


「また冗談ですか?」


私がそう言うと白狼さんは緩く口角を上げた。


「さぁ、どうでしょうね。

冗談は好きですけどあまり上手じゃないんで。」


掴めない、掴む隙がなさすぎる。

この人、ちょっと面白い。


「ふふっ。」

「笑った顔が可愛いですね。」


また冗談を言ってるのね、ほんとに変な人。


「もう分かりました、冗談が過ぎますよ?」

「冗談じゃないのに?」


全くもう、この人は。


「じゃあ次は私が質問します。

今はどこに向かっているんですか?」


ハンター協会の施設やホテルかな?

なんて予想していたけど…


「俺の家です。」


予想の斜め上を行く返答が来た。


「え!?白狼さんの家!?」


どうしてそうなるの!?


「はい、始祖の一族が絡んだ案件は基本的には各々で処理することになってます。

ハンター協会の施設は敵にすぐに見つかって襲撃される事があるので。」


信じられないくらい納得できる理由だった。


私が何も言えないでいると白狼さんは続けた。


「まぁ、俺の家に行ったところでその匂いでバレるんですけどね。俺の家だと分かって襲撃してくる奴はこの世で一番頭が悪いか自殺志願者くらいです。」


この人なんでこんな冷静なの?

自分の家が襲撃されるかもしれないのよ?


「どんな匂いがするんですか?」


私が聞くと白狼さんは、うーん、と悩んでいた。


「強烈な強者の匂い?

小鳥さんのハニーブラッドも相まって、どうしても欲しくなるような危険な香りがします。」


全くもって分からなかった。

あれ?ちょっと待って?


「どうして私の血のこと……。」

「まだ指先に少しついてる、俺は人狼で特に鼻がいいからよく分かるんですよ。」


そうだ、普通に話しているけど白狼さんは人狼の一家だ。


つまり、ヴァンパイアと同等に並ぶ捕食者。


「今小鳥さんを食い散らしてないなんて、自分の強固な理性に感動してます。」


私この人の家に行って大丈夫?

どうかこれも白狼さんの冗談でありますように。


「白狼さ」

「煌牙。」


え?何??


「煌牙って呼んでください。」

「煌牙、さん?」


さん付けでいいのよね?


「名前だけで結構です。

もしもの時、助けを呼ぶのに名前の方が呼びやすいでしょう?白狼さん、煌牙さんじゃ長いです。」


あぁ、何だ、そう言う理由ね。


「わかりました、そう呼ばせてもらいます。

私の事は好きに呼んでください。」


そう言うと煌牙は少し嬉しそうに笑った。


「わかりました、小鳥。」


なるほど、呼び捨てだそうです。

小っ恥ずかしいけど慣れるまでの辛抱よね。

何が何でも今は煌牙と一緒にいないと。


惨たらしい死に方はしたくない。

少し寂しいけど、蓮様の血が私の中から早く消えますように。

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