第7話 side小鳥
突然現れた銀髪の彼と蓮様は徐々に険悪な感じになっていく。
「俺が保護するって言ってるよね?」
「俺もさっきからそう言っているんですけど。」
見なくてもわかる、二人の目から何かバチバチ出ている気がする。
そもそもどうして両方が私のことを保護しようとしてるの?根本からおかしい。
「あ…あの、どちらの保護も必要ありません。
私は一人で大丈夫ですから。」
蓮様の胸元で声を上げたけど、抱きしめられているせいか声が篭ってしまった。
「一人だと24時間以内に死にますよ。
始祖の一族の血が流れた事実は簡単に広がる。
実際、特殊な血の匂いを辿って俺もここまで来ました。その血を飲んだあなたは歩く強化剤です。力を手にしたい連中はあなたを攫って殺して一滴残らず血を抜くはず。だから、あなたはハンター協会が保護します。」
ハンター協会?
わざわざハンターが出てくるなんて。
本来ハンターは人間以外の事件や事故でしか出て来ない。
「だから俺が保護するよ。
ハンター協会は信用できない、実際俺の方が何倍も強いしね。」
蓮様は一歩も譲る気がなさそうだった。
「そうかもしれませんけど決まりですから。
とりあえずその方をこちらへ渡してください。
渡していただけないならお偉いさんが出てきて信じられないくらい面倒な事になりますけどいいですか?」
お偉いさんとか、信じられないくらい面倒な事とか、聞いてるだけでゾッとする。
ここで蓮様がいくら拒否をしてもハンターの彼は諦めないだろう。
かと言って…
「そのお偉いさんとやらを呼んでみなよ。
俺が上手く説得してあげるから。」
蓮様も諦めそうにないけど。
「説得は無理だと思いますよ、決まりなんで。」
蓮様が面倒ごとに巻き込まれるのは嫌だ。
嫌だけど、大人しくハンターの彼について行った方がよさそう。
私はそこで自分のついた嘘を思い出す。
私は昨日、蓮様に嘘をついた。
好きな人がいて、その彼はハンターだって。
目の前の人を好きな人に仕立て上げて、私の恋を応援してね的な流れに持っていけばいい。
我ながら天才ね、戦国時代に生まれてたらきっと軍師になってたわ。
ただ問題が一つ。
ハンターの彼の名前が全く分からない事だ。
「白狼家の者はみんな頭が堅いの?
それとも君だけ?」
ナイス蓮様!!!!!
彼は白狼家の人なのね!
白狼……?
今朝、電車の中で見たあの夢は今この瞬間のことを暗示していたんだろうか。
胸の傷を負った日に、蓮様のお母様の京子様が言っていた。
白狼家の長男が私に一目惚れした、って。
こんな偶然があっていいんだろうか?
うん、あっていい。
過酷な生活の中で見出した私の見解はこう。
使える物は全て使う。
つまり…
「白狼さん?」
今は彼を使うしかない!
「「え?」」
二人は同じように聞き返す。
蓮様からしたら何で知ってるんだ?って感じだろうし、白狼さんからしたら誰だコイツって感じよね。
それでもいい、意外とどうにかなる、そう信じてる。
「白狼さん!」
私が蓮様の胸元から顔を上げて彼を見ると、彼は顔を真っ赤にした。
「っ///////」
これは間違いない、さては白狼さん…私に惚れた経験があるわね。
その顔を見れば分かる。
私もつい最近その顔をした。
子供の頃の淡い初恋を思い出した、その顔を。
「小鳥ちゃん、何で白狼の事知ってるの?」
蓮様は少し動揺しているように思えた。
「前に助けてもらって…あの、夜道を歩いてたら変な人に襲われそうになって、その時たまたま通りがかった白狼さんに助けてもらったんです!」
嘘、全部真っ赤な嘘。
「じゃあ昨日の内緒話は彼の事?」
蓮様は昨日の話をちゃんと覚えていた。
そして私はまた嘘をつく。
好きな人がいる、そんな最低な嘘を。
だけどそれで蓮様と関わらなくて済むならそれでいい。
私はどうにかあなたを諦めたい。
「はい、彼です。」
私の答えを聞いて蓮様が私の両頬を優しく包んだ。
「小鳥ちゃん、忘れちゃったの?」
突然、雰囲気が変わる蓮様、目の色が濃くなった。
まるで、あのディナーの日の夜にお庭に連れ出されたあの時みたいに。
「"あの時"ちゃんと言ったでしょ?
狼と関わったらダメだって。」
「//////////」
不意にドキッと胸が高鳴る。
あの日の事を鮮明に覚えているのは私だけじゃない、そう言われているような気がした。
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