第5話 side小鳥
〜13年前〜
「小鳥ちゃん、いらっしゃい。」
学校が終わり宿題を終わらせていつものように蓮様の家に行った。
「蓮様、お邪魔します。」
この家は本当に大きくて広い。
「ずっと様を付けるつもり?
去年までは蓮くんって呼んでくれてたのに。」
蓮様は少し不服そう。
「小鳥はもう10才になったから、蓮様の事はちゃんと呼びなさいって言われたの。
中学生になったらもっとちゃんとした話し方で話さないといけないんだって。」
お父さんとお母さんは、敬語とか言ってたかな。
「いいよ、そんなの気にしないで。
俺と小鳥ちゃんは仲良しだから。」
図々しくも蓮様に恋をしていたから、私はその言葉だけで十分だった。
蓮様と一緒に絵を描いたり、お庭を散歩したり、好きな人と一緒にいれば何をしても楽しかった。
私が帰る頃、私の両親と蓮様の両親が話をしていた。
その内容は、土曜日に一緒にディナーをしないかと言うもの。
私の両親は蓮様の両親から凄く気に入られている使用人だからこうしてたまにディナーに誘われていた。
もちろんそれを断ったことはない。
私もそのお誘いは嬉しかった。
その日はいい服を着て美味しいものを食べれるし、蓮様とも長い時間一緒にいられるから。
両親達が話に夢中になっているのを他所に、蓮様と目配せをして微笑み合った。
あっという間にディナーの日になった。
私は普段着ない、おしゃれな黒いワンピースを着て、両親も綺麗な格好をしていた。
ディナーをするために、夜に蓮様の豪邸へ行くと蓮様が直々に迎え入れてくれた。
「こんばんは、小鳥ちゃんをエスコートしてもよろしいですか?」
蓮様の申し出を微笑ましそうに受ける私の両親。
「もちろんです、蓮様。」
お父さんはすぐに許可を出し、
「小鳥、蓮様にご迷惑をかけてはダメよ?」
お母さんは私に釘を刺した。
「うん!」
私が元気よく返事をした時には蓮様が隣に来ていて腕を出している。
私は少し緊張しながらその腕にそっと手を回した。
蓮様にエスコートされてディナーの席に着いた。目の前には美しいものしか置いてない。
ピカピカの食器、色とりどりの花、何もかも美しい。
ディナーは淡々と進み、デザートを食べる頃には両親たちがいろいろな話をしていた。
「そう言えばね、璃子さんからいいお話があってね?小鳥ちゃんを気に入った男の子がいるそうなのよ。」
中でも気になったのは、蓮様のお母様の京子様が言ったことだ。
京子様が言った璃子さんとは西園寺璃子様。
つまり、西園寺梨花様のお母様だ。
「まぁ、うちの小鳥をですか?」
お母さんはすぐに身を乗り出した。
「えぇ、そうなの。
京子様の問いにお母さんは一言答え、お父さんは驚いたように聞き返した。
「えぇ。」
「まさかあのハンター一家の白狼家ですか?」
白狼家、そんなのは知らない。
ただ、ハンターはよく分かる。
悪いヴァンパイアや人狼や魔女、魔法使いを懲らしめる人達だ。
「そうだ、あの白狼家の長男が蓮と同い年でね。私も話を聞いた時は驚いたよ、どうやら白狼家の長男が小鳥ちゃんに一目惚れしたらしい。」
蓮様のお父様、
「小鳥ちゃんは綺麗な子だもの、不思議な話ではないわ。ねぇ?小鳥ちゃん。」
京子様は嬉しそうに私に言った。
もちろん、こんな時は私も嬉しそうにしないといけない。
「ありがとう存じます、京子様。
美しい京子様にそのようにお褒めいただいて嬉しいです。」
私の返答を気に入った京子様は嬉しそうに続けた。
「まぁ、本当に教育の行き届いている子ね。
こんなにいい子ならどこへ出しても恥ずかしくないわ。蓮もそう思うでしょう?」
京子様は蓮様に話を振った。
「そうですね、母さん。
小鳥ちゃんは賢い子ですから。」
蓮様も嬉しそうに京子様に言った。
私はそれを聞いて嬉しい振りをした。
本当はちっとも嬉しくない。
白狼家って誰?
私はそんな人に好きになってもらっても嬉しくない。
私は蓮様が好きだから、蓮様に好きだと言われたいのに。
張り付いた笑顔を絶やさないようにするのに必死だった。
「母さん、父さん、デザートも食べ終わったし小鳥ちゃんと庭に行ってきてもいいですか?」
蓮様はどうやらこの場に飽きてしまったみたいで私を連れ出す許可を両親に取った。
「えぇ、もちろんよ。」
「敷地の外には出るんじゃないぞ?」
もちろん蓮様にダメだと言う人はいなかった。
「はい、少し庭に出るだけです。
すぐに戻ってきます。小鳥ちゃん、行こう?」
蓮様は一瞬で私の隣に来た。
「う…はい。」
蓮様の手を取り息の詰まりそうなディナーの場を後にした。
窮屈な思いが完全になくなったのは蓮様とお庭に出た時。
「……蓮様?」
蓮様は真っ暗なお庭で私の手を握ったまま立ち止まっていた。
蓮様はどうして何も言わないんだろう。
「れんさ」
「小鳥ちゃん。」
暗闇で表情が見えないけど、少しだけ怒っているような気がした。
「白狼家の連中と関わったらダメだよ。」
関わることはきっとない。
だけど…
「どうして?」
どうしてダメだと言うのか気になる。
「白狼家は人狼の一族で狂暴だって聞いた事があるから。だから、関わったらダメだよ。
小鳥ちゃんは弱いからきっと頭からバリバリ食べられちゃうよ。」
少し期待して聞いていたけど、蓮様が怖いことを言うだけだった。
「で、でも、人狼は人は食べないって学校で言ってたよ?」
私が学校で習ったことを言うと蓮様が私の手を強く握った。
「っ!」
「でも昔は食べてた、今だって食べない保証はないよ。だから、狼たちとは関わらないで。いい?」
暗闇に光る真っ赤な瞳。
その瞳がいつもよりも赤い気がして初めて蓮様を怖いと思った。
私は何度も頷き、それを見た蓮様は手の力をそっと緩めた。
「よかった。それより小鳥ちゃん、俺ね何年か前にこの辺りにタイムカプセルを埋めたんだ。
掘るの手伝ってくれない?」
え!?今!?夜だよ!?
「い…いいけど、今掘るの?
お昼とかじゃなくて?」
私が聞くと蓮様はすぐに答えた。
「うん、今掘りたい。」
蓮様がいきなり変なことを言い出すのはこれが初めてじゃない。
蓮様はこう見えて突然何かを思いついて実行する事がある、それがたまたま今なだけ。
蓮様の言うことはよく聞いておかないと。
将来、私は蓮様の使用人になるんだから。
「いいけど、スコップとかは?
手で掘るのは嫌だよ?」
「待ってて、持ってくるから。」
蓮様はそう言って一瞬で消えてしまい、少しして戻ってきた。
「はい、これ。」
暗くてよく見えないけど蓮様に渡されたのは確かにスコップだった。
「ありがとう。」
「うん、じゃあその辺りを掘って?
俺もここらを掘るから。」
蓮様は本当に訳がわからない時がある。
普通夜にタイムカプセル掘る?
頭の上に何度も?を浮かべながら、暗くてよく見えない地面を掘った。
掘り始めて10分くらいした頃、蓮様が声を上げた。
「あった。」
案外早く見つかった、ヴァンパイアはやっぱり掘るのが早いのかな?
なんて思いながら蓮様の隣にしゃがみ込む。
すると、カツッと音がした。
「何だろう、これ。
石かな?引っかかっちゃった。」
蓮様はそう言って手に力を入れている。
「私も手伝おうか?」
蓮様の方がずっと力が強いから私が手伝っても無駄かもしれないけど。
「うん、お願いできる?」
「いいよ!任せて!」
私が蓮様を手伝おうと蓮様の方へ身を寄せた瞬間…
ズシャッ!!!
「きゃっ!!!」
鋭い痛みが胸の辺りに広がり、一瞬息ができなくなった。
嘲笑うかのように月が顔を出し辺りが明るくなり血が舞った。
その血は蓮様の顔にもかかり、蓮様の赤い瞳が煌々と輝く。月明かりの中見えた、蓮様は…
「小鳥ちゃん…美味しい//////」
真のヴァンパイアだった。
蓮様は数秒して我に返った。
「あ…小鳥ちゃんっ…俺…
ごめん…本当に…ごめんっ…!」
蓮様はすぐに口元を隠し蹲る。
「っ……!!!」
私は痛くて痛くて声も出ない。
「蓮!小鳥ちゃん!」
そんな中、響様が現れた。
「これは一体…!」
絶句する響様の元に私の両親と京子様もかけつけた。
「小鳥!大丈夫か!」
「小鳥!しっかり!」
私の両親はすぐに私に駆け寄り、蓮様の両親は蓮様を問いただした。
「蓮!お前がやったのか!答えろ!蓮!」
「蓮!どうしてこんな事になっているの!?
説明なさい!!」
「響様!京子様!
後生です!血をください!!」
お母さんが泣きながら訴えた。
どうしてお母さんがヴァンパイアの血を求めたのか。
それは、ヴァンパイアの血には治癒力があるから
どんな大怪我でもたちまち治す力が宿っている。
「小鳥ちゃんはまだ10歳だから無理よ!
子供には強すぎてヴァンパイアの血は拒否反応が出る!救急車を呼ぶわ!」
京子様はそう言ってすぐに救急車を呼んでくれた。
救急車で病院に運ばれ、胸元を20針縫った。
ヴァンパイアの血を飲めれば傷は残らない。
でも私は子供だから血を飲むことはできなかった。
医者からは跡が残ると言われ少しだけ落ち込んだけど、蓮様を責めたくない気持ちで傷のことは気にしないことにした。
次の日に、自分の両親と蓮様のご両親に全て事故だった事を説明し私たちの関係は元通り。
だけどこの日から蓮様は少し変わった。
一番変わったのは視線だ。
優しかった瞳は私を捕える瞳に変わっていた。
病院のベッドで何もする事がなく寝転んでいたら蓮様が来る。
今は夜の7時、面会時間はとっくに終わっているのに蓮様はどうやって入ってきたんだろう。
あ、そうか。
ここは響様の会社が建てた病院だ。
御曹司なら面会時間なんて簡単にどうにかできるよね。
「小鳥ちゃん、傷はどう?まだ痛い?」
蓮様が申し訳なさそうにする度に胸が締め付けられた。
「痛くないよ!」
本当は痛い。
昨日の夜は痛くて眠れなかった。
だけど、蓮様はわざとやったわけじゃないから私は蓮様を責めたりしない。
「小鳥ちゃん、本当にごめんね。
痛かっただろうし、怖がらせてしまったよね。」
こんなに落ち込んでいる蓮様を見た事がなかった。
「それに、そこ。痕が残るって…。」
私の胸元にぐるぐるに巻かれた包帯を見て蓮様はもっと悲しそうな顔をした。
「大丈夫だよ、蓮様。
服を着ていれば見えないし。」
私がそう言うと蓮様はそっと私の手を握った。
「ダメだよ。
女の子の体に傷を残すなんて…。
もしも小鳥ちゃんがこの先この傷で困るような事があるなら俺がどうにかする。
俺が小鳥ちゃんをずっと守っていくよ。」
まっすぐ目を見て言われた言葉に胸がキュンと温かくなった。
そして、ほんの少しだけ傷を負ってよかったとも思ってしまった。
この傷があるおかげで、私は蓮様に今よりももっと相手にしてもらえると思ったからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます