第3話 side小鳥

蓮様に連れられて来たのは、私が一生縁のないと思っていた超高級ホテル。

ここはかの有名な小鳥遊財閥の長男が建てた誰もが知るホテルだ。

小鳥遊財閥の長男は誰だったっけ?

そうそう、蓮様だ。

蓮様は普通にホテルに入り、普通に高そうなバーに行く。


メニュー表はなく、ひたすらに一杯のグラスの値段が怖かった。

まぁいい、いざという時の魔法のカードがある。

そう、クレジットカードだ。

蓮様とカウンターで呑みながら話すのだと思っていた。

だけど、三大財閥の跡取り息子はやる事が違う。

顔パスで一番奥のVIPルームに私を連れて行った。


ルーム料金はいくらでしょうか。

もうお金の事しか頭にない。

私、破産しないかな?


「好きなもの頼んで。わざわざ仕事を抜けてきてもらったからご馳走するよ。」

「いえ、自分の分は自分で払います。」


たとえ自己破産しようともね。


「俺のホテルで俺が連れてきた女の子にお金出させるつもり?俺の面子は丸潰れになるけど。」


そ…それはそうかもしれないけど………


「私、誰にも借りを作りたくないんです。」


特にお金に関してはね。


「分かった、次回から気をつけるよ。」


次回?そんなのないよ。


「いえ、これが最後ですよ。

こんな所、西園寺様に見られたら彼女はいい気はされないでしょうし。」


あなたの幼馴染で、ヴァンパイア三大財閥の一つ、西園寺家の長女梨花様がね。


「梨花?どうして?」


「ご結婚されるんですよね、西園寺様と。」


昔から、蓮様の豪邸に遊びに行っていた時から聞かされていた。

あのわがまま娘の西園寺梨花様からね。


蓮様は私と結婚するのー、って。

それに、メディアでもよく取り上げられてる。


「しないよ。誰が流してるかは知らないけどデマ情報だから当てにしないで。」


今はデマかもしれない。

でも、いずれそれは本当のことになる。


あの西園寺様が蓮様を諦める訳ないもの。


私は西園寺様が嫌いだ。

あの人には散々いじめられたから。

蓮様には気付かれないような陰湿なやり方でね。

告げ口みたいだし、信じてもらえないだろうからわざわざそんなことは蓮様には言わないけど。


「それにほら、俺は小鳥ちゃんを娶らないと。

ココの傷、跡になったでしょう?」


蓮様は私の胸元を見ながら自身の胸元をトントンと叩く。

私には過去に蓮様と遊んでいて大怪我をした事がある。


蓮様とタイムカプセルを掘っていた時、不意に蓮様が持っていたスコップが私に当たってしまった。

普通の子供の力なら胸元は切れなかっただろう。

だけど蓮様はヴァンパイアで私は人間。

スコップが胸元に当たった瞬間、海外のゾンビ映画並に血が吹き出したのを覚えている。


「こんな傷、もうどうでもいいですよ。

服を着ていれば見えないので全く問題ありません。それに、事故ですから蓮様が負目を感じる必要はありません。」


私がそう言うと蓮様は少し悲しそうな顔をした。


「俺にちゃんと責任を取らせてよ。

小鳥ちゃんを傷物にした上に、ご両親が亡くなった後探し出すこともできなかったんだから。」


蓮様は本当に責任感の強い人なのね。

私を好きだとかそんな事でこうしているわけじゃない。


「気にしないでください、責任をとって欲しいなんて微塵も思っていませんから。

お互い好きな人と結婚して幸せになればそれでいいじゃないですか。」


「小鳥ちゃん、好きな人がいるの?

誰が好きなの?」


まさかそう聞いてくるとは思わなかったから嘘をつくことにした。

好きな人がいると知れば蓮様も私の傷の責任を取ろうとはしないはずだから。


「ヴァンパイアハンターの人です。」


出た、私の架空の人物。

借金取りには知り合いのヴァンパイアハンターがいると嘘をついて、蓮様にも同じ嘘をつく。

どうにかこれで誤魔化そう。

本当は好きな人なんていない。


目の前にいる素敵な紳士を好きだった以上に好きになれる人なんてきっと存在しない。


だけど、私の恋は13歳で潰れてしまった。

その気持ちをまた思い出して現実を突き付けられて絶望したくない。


あなたに簡単に溺れる自信がある。

ここで踏みとどまらなければ地獄を見るのも分かってる。だから私は一線を引いた。


中途半端な優しさで期待なんかしないように。

過去の傷は過去の物にして責任なんて取らせない。

それに、傷や責任で結婚なんかしたくないわ。


「名前は…?」


あれ?声が少し低くなった?


「その彼とはどこで知り合ったの?」


まさかこんなに突っ込まれるとは思っていなかった。こう言う時は必殺技がある。


「内緒です。」


そう、この一言。

内緒と言えば絶対にこれ以上は聞かれない。


「そう、内緒なら仕方ないね。」


よかった、私の予想通り引いてくれたわ。

ここで話題を変えよう。


「話は変わりますが聞きたい事があります。」


私がそう聞くと蓮様は足を組んだ。


「なんでも聞いて?」


じゃあ遠慮なく。


「どうしてnightingaleにいたんですか?」


店の裏の構造もよく知っていたみたいだしずっと気になっていた。


「あぁ、あの店は俺が資金援助した所なんだ。

その特典って言ったらいいかな?

今日みたいに尋問する時とかに使わせてもらってる。」


あぁ、なるほどそうだったのね。

まさかnightingaleが蓮様の支援の元に出来たなんて全く知らなかった。


話を逸らせて安堵した私はその後の蓮様との会話を楽しんだ。


出てくるお酒も全てが美味しくてつい飲みすぎてしまった、お酒は怖い。


まだ大丈夫、まだ大丈夫と思っていても気が付けば取り返しがつかないくらいの酔いが回る事がある。


蓮様に対する緊張もあったせいか私はいつの間にか酔っ払っていた。


「小鳥ちゃん、大丈夫?

家まで送ってあげるから住所教えて?」

「〇〇って言うアパートれす…」


酔いが回り理性が働かない私は何も考えず蓮様にアパートの名前を教えていた。

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