十月の蝶（ちょう）

エピローグ

　大人（おとな）になっても季節（きせつ）は巡（めぐ）り、また十月（じゅうがつ）が来（く）る。私は小学校（しょうがっこう）に赴（おもむ）いていた。

「はーい、一列（いちれつ）に並（なら）んでねー」

　今日（きょう）は就学（しゅうがく）時（じ）健康（けんこう）診断（しんだん）で、小学校に入学（にゅうがく）する前（まえ）の児童（じどう）が健康（けんこう）診断（しんだん）を行（おこな）う。廊下（ろうか）では子（こ）どもたちが指示（しじ）に従（したが）って並（なら）んでいるのだろう。医者（いしゃ）である私は内科（ないか）検診（けんしん）の担当（たんとう）で、教室（きょうしつ）の一（ひと）つに入（はい）って待機（たいき）していた。

　私の両親（りょうしん）は開業医（かいぎょうい）だったが、もう引退（いんたい）してしまった。私は親（おや）の医院（いいん）を継（つ）ぐことなく、別（べつ）の病（びょう）院（いん）に勤務（きんむ）している。私が医者（いしゃ）を志（こころざ）したのは、あれこれ勉（・）強（・）を教（おし）えてくれた彼女の影響（えいきょう）だ。

　子（こ）どもの姿（すがた）は美（うつく）しい。私の身体（からだ）を撮影（さつえい）し続（つづ）けた彼女みたいなことはしないが、脳内（のうない）で繰（く）り返（かえ）し、診察（しんさつ）される幼（おさな）い蝶（ちょう）の姿（すがた）を毎年（まいとし）、私は堪能（たんのう）する。今（いま）のところ彼女が逮捕（たいほ）されたというニュースは聞（き）いてなくて、私も性癖（せいへき）は、可能（かのう）な限（かぎ）り隠（かく）して生（い）きていこうと思（おも）う。

　十月（じゅうがつ）にも蝶（ちょう）は飛（と）ぶ。私は秋（あき）の蝶（ちょう）をこよなく愛（あい）し、淫（みだ）らな妄想（もうそう）を愉（たの）しみながら生（い）き延（の）び続（つづ）ける。