第31話 いざ懇親会
週末の金曜日、職場がなんとなく浮足立って華やいでいる。
仕事時間が終って、俺と麗奈も定時で職場を後にした。
今日の麗奈は赤いシャツに黒のミニスカート姿で、胸もとで銀のアクセサリーが揺れている。
いつもよりもお洒落度が高いんだ。
一緒に一階のロビーまで降りて時間を潰していると、俺たちを追いかけるように菊一が現れて、その次に正宗君が姿を見せた。
俺はともかく、男子二人はドレスシャツやジャケットで身を包んでいる。
そして最後の姿を見せたのが沙里亜さん。
白いショートミニのワンピース姿で、耳元では星型のピアスが揺れている。
要は俺以外は全員が、普段よりもお洒落をしている。
今日は懇親会の当日、会社のみんなで揃って、正宗君が予約してくれた店に向かうんだ。
ロビーには、同じように待ち合わせをしているっぽい人や、家路を急ぐ人がいるけれど、そのほどんとがこっちに目を向ける。
宝石のような瞳が輝いて、セミロングの黒髪が照り光る麗奈。
ロングの巻髪が艶めいて大人の色香が溢れ出る沙里亜さん。
お洒落に決めた超絶美女二人が揃っているのだから、その吸引力は半端じゃないんだ。
菊一も正宗君も、眼尻が下がりっぱなしだ。
正宗君が予約してくれたのは、駅二つ分ほど電車に乗った先にある洋風居酒屋だ。
ネットのグルメサイトの評価は4つ星以上で、人気が高い。
店に着くと、丁度六人が座れるほどの広さの個室へと通された。
座り方って、どうしたらいいんだろうな。
俺は別にどこでもいいんだけど。
すかさず、気遣いができる菊一が音頭を取る。
「じゃあ、梅澤さんが真ん中で、その奥が月乃下さんでどうかな? 長船は一番入り口側でいいか?」
「ああ、かまわないよ」
三人が向かい合って座る掘りごたつの席で、一番奥に麗奈がいてその前に菊一、麗奈の隣が沙里亜さんでその前に正宗君、沙里亜さんのもう一つの隣の席は開けてあって、その前に俺が座った。
軽い雑談をしていると約束の時間の少し前になって、白木の引き戸が開いて、最後の一人が現れた。
「あの、すみません、遅くなりました」
彼女は朱宮さん、金色の髪の毛を揺らして、申し訳なさそうに丁寧に頭を下げる。
「大丈夫、まだ時間前だよ。みんな、彼女が
俺以外はほぼ面識がないので、軽く紹介する。
「どうも初めまして、朱宮です。今日は呼んで頂いて、ありがとうございます」
金色の長い髪の毛に手をやりながら、カラコンで青く染まった瞳を流す朱宮さん。
ブラウン地に赤や黒のストライプが入ったタータンチェックのスカートから覗く素足が、真っ白で清々しい。
「また会ったね~、この前のお店以来だね!」
麗奈と沙里亜さんが拍手で迎える。
菊一は照れたように笑い、正宗君はぽかんと口を開けて呆けている。
男子は早速、目の前に現れた美女に当てられてしまったようだ。
俺の目の前の席で腰を降ろした朱宮さんは、ちょっと照れたように、こっちに笑顔を向けた。
タイプの違う美女三人が揃って、面と向かって座ると壮観だ。
「じ、じゃあ揃いましたんで、飲み物でも頼みましょうか? それから自己紹介をして……」
「おい固いぞ、正宗君!」
可哀そうなほどにがちがちに緊張している正宗君に、イケメン菊一が横から突っ込む。
そんな様子を、目の前の女性三人は微笑ましく見守る。
テーブルの上に置かれたタブレットを使って、とりあえずビール、それにいくつか料理を注文する。
少し待つと瓶ビールとグラスが届いたので、お互いに注ぎ合った。
このあたりは、会社の飲み会でも合コンでも、同じ感じだ。
「じゃあ幹事、挨拶を」
「は、はい。みなさん、本日はお日柄もよろしく……」
「結婚式の挨拶かよ、それ!」
「「「あははは!」」」
初心な少年のように、顔を赤くして緊張している正宗君に、笑いが集る。
ひとまず乾杯を済ませてから、
「じゃあ、自己紹介をお願い。まずは菊一君から」
「え、俺からか? よし、初めまして朱宮さん、
菊一の軽い自己紹介に続いて、正宗君は真面目に自分の経歴をとうとうと述べた。
そういうところは、彼の実直な性格が現れている。
「じゃあ長船君……は、必要ないかな?」
「うん。みんな、俺がこんな奴だって、知ってるよね?」
「どんな奴なんだろうね~、私はよく知らないけれど」
グラスを傾けながら、面白がって流し目を送ってくる沙里亜さん。
あの、この三人の中では、あなたが一番付き合いが長いと思うんですけど?
男どもの自己紹介が終ってから、今度は女性陣の方にバトンタッチ。
「へえ、朱宮さん、医学部なんだ? すごいね?」
「いえいえ。入るのは難しかったけど、今はあんまり勉強もしなくて、遊んでばっかりなんです」
「その髪いいね。よく似合ってるよ」
「ありがとうございます!」
やっぱりこういう場は、菊一の独壇場だ。
入社当時の合コンでは、よくこいつが一人でかっさらって行ったものだった。
お陰で俺はあまり気を使わずに、酒を舐められて楽なのだけれど。
一通り自己紹介を終えたあたりで、次々と料理が運ばれてくる。
鮮魚のカルパッチョが乗ったサラダや、赤ワインで煮込んだ牛フィレ肉、鶏ももの香草焼き……この店自慢の料理が、テーブルの上にずらりと並ぶ。
だんだんと会話も弾んでいって、みんな二杯目、三杯目と、杯が進んでいく。
「ところでみなさん、ここらでゲームでもしませんか?」
急に菊一が言い出すと、沙里亜さんが面白そうに頬を緩ませた。
「なんのゲーム?」
「王様ゲームです。くじを持ってきましたんで」
筒の中から割り箸のような棒が突きだしたものを、すっとテーブルの上に置いた。
合コンの定番ゲームだな。
王様の他には番号が振ってあって、王様を引いた者は番号を指定して、命令ができるのだ。
誰が何番を引いたのかは分からないので、命令によってはとんでもないことになる。
そこが面白いゲームだ。
「うん、いいんじゃない、面白そう」
「私もいいよ」
「はい、大丈夫です」
女性三人が反対しなかったので、菊一の提案は採用になった。
「それじゃあいきましょうか。せ~の……」
「「「「「「王様の命令は絶対!」」」」」」
大きな掛け声と共に一斉にくじを引く。
「おお、俺が王様だな、よし!」
王様のくじを引いた菊一が、高らかに命令した。
「1番が3番に告白しろ!」
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