第30話 これって合コンじゃない?

 とある勤務日、麗奈と一緒に社内施設の改修について話しをしていると、不意に明るい声が聞こえた。


「長船君、月乃下さん」


「あっ、正宗君!」


 現れたのは、技術社員で同期の正宗君だ。


「ありがとう。本当にお世話になったよ」


「いやいや、上手くいってよかったね」


 正宗君から相談があった件はうちの上司にも相談して、彼や相手方の女性の上司にも連絡を入れた。

 それから女性の方からも話を聞いてから、今後彼との接触は控えるように指示があって、彼女はそれに同意した。

 正宗君を指導する先輩も、別の人に変わったようだ。

 一応これで、一件落着と言いたいところだ。

 そんなこともあってだろうけど、彼の顔は明るい。


「あのさ、もし良かったらなんだけど、ご飯でも食べにいかない? お礼がしたいしさ」


「え? いや、気を使わなくていいよ。こっちだって仕事だったんだし」


「まあそうかもしれないけどさ、僕たちって同期じゃない。これも何かの縁かなって思って。菊一君も一緒に」


 入社したての時には、たまに同期で集まったりすることもあった。

 けども最近ではそんな機会も減ってきている。

 そういうのも、たまにはいいかもしれないな。


「分かった。じゃあ菊一にも訊いてみようか?」


「うん、そうしよう!」


 早速、傍のデスクで仕事をしていた菊一を、人気がない場所へ呼んで、そんな話をした。

 最初は彼も遠慮していたけれど、正宗君が真剣にお願いするので、その気になったみたいだ。


「うん、いいじゃないか。でも、月乃下さんだけ、女の子一人なんだな」


「ああ、そういうことになるかな」


「どうせなら懇親会ってことにして、他も呼んでみるか? 梅澤さんとかさ。お前、梅澤さんとは仲がいいだろ?」


 ……まあ、普通以上には、そうなんだろうな。


「えっ!? 梅澤さん……!?」


「うん、法務部の。知ってるの?」


「うん……長船君、梅澤さんと仲がいいの?」


「まあ、普通には話すよ。ずっと一緒に仕事をさせてもらっているからね」


「へえ、いいなあ……ねえ、どんな人なの?」


「えと、とっても仕事ができる人だよ。話だって面白いし」


「そっかあ、それにすごく綺麗だしね」


 正宗君が君が驚いた様子で目を見開いて、身を乗り出している。

 なんだか、梅澤さんに興味ありげだ。


「長船、お前から梅澤さんに、声をかけてみてくれよ。どうせなら大勢の方が楽しいだろ?」


 菊一も、彼女のことを呼びたそうだ。

 仕事以外で、社内でも人気者の彼女と話をするのは、簡単じゃないんだ。

 俺の場合はそうでもないけれど、たまたまそうなっただけで。


「そうだなあ、忙しい人だから、訊いてみないことにはな。一応話はしてみるよ」


「ありがとう、長船君!」


 なんだかすごく嬉しそうだな、正宗君。

 ちょっと前までの沈んでいた表情が無くなって、別人みたいだ。


 こういうことは早い方がいいので、早速、沙里亜さんに社内チャットでメッセージを送った。

 すると、しばらくしてから返事があって、


『なんだか合コンみたいね、久しぶりに面白そう。でもそれだと、女子が一人足りないわね』


『まあそうですね。でもみんな、沙里亜さんに会いたがってますよ』


『あら嬉しい。でも私は、兼成君がいてくれればそれでいいんだけどな』


 そう言ってもらえるのは嬉しいけど。

 でもこれ以上続けると、他の人には見せられない赤面の会話になりそうだ。


『まあその話はまた今度にして、ひとまずよろしくお願いします』


『はい、また今度ね』


 よし、じゃあできれば、あと一人か。

 後で菊一にでも相談してみるかなあ、あいつの方が女性の知り合いは多そうだし。

 あまり深く考えないで仕事に戻ると、今度は個人のスマホがブルブルと震えた。


『こんにちは! どこかご飯にでも行きませんか?』


 朱宮さんからだ。

 今回のメッセージには何の写真もくっついてなくて、ほっとする。

 さすがに職場であれを貰うと、その後仕事が手に付かないかもしれないので。


 ご飯ね……あっ!

 もしかして丁度いいんじゃないか、これ?

 ダメもとで、彼女を誘ってみようか。


 自分のスマホから、懇親会に来ないかと誘ってみると、意外に早く返信があった。


『それって会社の集まりなんですか?』


『うん。俺の同期の男三人と、あとは若い女性が二人。いつも一緒に仕事をしてる仲間だよ』


『それ私が入ってもいいんですか?』


『全然いいよ。くだけた集まりだからさ。もし良かったら』


『本当は私、長船さんと二人がいいんだけどなあ』


 ……そう言ってくれるのは嬉しけどもさ。

 でも今は、こっちの集まりの方が優先なんだ。


『それはまた今度ってことで。考えてみてよ』


『分かりました行きます。その代わり今度、二人でも会って下さいね』


 ……意外とあっさりOKしてくれたけど、なんかオマケがくっ付いたな。

 まあいいか、せっかく来てもらうんだから、それは今度埋め合わせはしよう。


『了解。じゃあよろしくね』


『はい、楽しみにしています』


 思いのほか、あっさりと面子が固まったみたいだ。

 善は急げで、菊一を廊下の片隅に引っ張りだして、


「一応、月乃下さん以外に、女性を二人ほど呼んだから」


「お、すごいな。誰だよ?」


「梅澤さんと、もう一人はこの前行ったカラオケバーにいた子だよ」


「ええっ!? どんな子だよ、それ?」


「金髪の髪の子がいたろ、その子だよ」


 すると、目をまん丸にして、俺のことを凝視する菊一。


「ずっとお前の隣に座ってたあの可愛い子か。確かに雰囲気が良かったもんな、お前ら」


 覚えていたのか、お前も。

 朱宮さんんだって、相当な美人だ。

 あれだけ人目を惹く美貌と華やかさがあると、やっぱり目が行ってしまって、頭に残るのだろうな。


「女子の方の都合は俺が訊くから、できるだけそれに合わせてくれ」


「ああ、もちろんだよ! やるな、お前!」


 こいつはかなりのイケメンだから、こんな話には慣れているはずだけど。

 でも滅茶苦茶嬉しそうで、頬がだらしなく緩みっぱなしだ。


 それから女性陣の都合を訊いてから、正宗君にも伝えると、即レスで返事が帰って来た。


『ありがとう長船君、感激だよ! お店の方は僕に任せて!』


 こうして、懇親会という名の合コンのような集まりは、その日のうちにセッティングされたのだった。




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