第22話 意外と大胆!?
薄暗い水族館のような店内で、朱宮さんが明るく笑っている。
つられてこっちも、つい頬が緩くなる。
二人とも昔は似た者同士だったし、今は同じような趣味もある。
なんだか親近感もわいてきたりしている。
「長船さん、連絡先交換しようよ」
え? それは……いいのかな、俺なんかと。
嬉し恥ずかしいし、ちょっと迷うけど、でも断るのも申し訳ないし。
「うん、いいよ」
メッセージアプリを立ち上げて、友達追加をすると、お互いのスマホに新しいアイコンが表示された。
「ありがとう。写真を送るからね、長船さん」
「え、写真?」
「うん。私のコスの写真を送るから、感想聞かせてよ」
……別にいいけどさ。
一体どんな写真が送られてくるんだろ?
ちょっと怖い気もするけど、興味もあったりして。
「まあ、いいけど。でもそれ、俺でいいの? 大したことは言えないかもしれないけど」
「うん。長船さんは『くず100』も『ぬる女』も知ってる人だから、話が聞きたいんだ」
「分かった。精一杯頑張ってみるよ」
「頑張んなくていいよ。思ったことを教えてくれたらさ」
水槽の中で、熱帯魚たちが優雅に舞う。
青白い光を浴びながら、ゆったりとした時間が過ぎていく。
「ねえ、長船さんは、会社で何をしてるの?」
「色々だよ。世界をつなぐ会議の手伝いから、ティッシュペーパーの配達までね。総務ってとこにいるんだ」
「そうなんだ。仕事、楽しい?」
「どうかな? 楽しい、楽しくない、どっちもかな。だけど、それなりに一生懸命やったら、その後の一杯が美味いんだ」
「へえ。いいじゃない、それ。私のコスと一緒だ」
「なるほど、そうなんだね」
頑張った後のお楽しみは、自分にとってのご褒美だ。
朱宮さんにとってのコスプレは、そんな意味もあるんだろう。
「そういえば、綺麗な人がいたわね、この前お店で。知り合いなの?」
この前、綺麗な……えっと、どっちだろ? どっちもだろうかな?
「二人いたと思うけど。俺の先輩と後輩だよ」
沙里亜さんと麗奈、綺麗ということでいえば、二人とも負けてはいない。
沙里亜さんは落ち着いた大人の女性、麗奈は明るく闊達な女の子といった感じだけど。
「そうなんだ。二人とも、ちらちら長船さんのことを見てたわね」
へ……?
そうだっけ? 全然気が付かなかったけど。
もしそうなら、俺は歌うのに懸命だったから?
それとも、朱宮さんとの話に夢中だったから、分からなかっただけかな?
確かにあの夜は、お酒も入って、彼女と好きな話もできて、楽しかった。
朱宮さんは俺と話しながら周りも見ていたなんて、さすがにああいう場で慣れてる。
「まあ、仕事で一緒だからな。でも、こいつなにやってんだろうって、思われてたんじゃないのかな」
「そっか。それだけならいいけど」
「え? どう言うこと?」
「だって、私はこうして長船さんといる訳だし。何かあったら申し訳ないじゃない?」
……それだけ……でもない気はするんだよな、実は。
一人は部屋に入り浸ってくる隣の住人、もう一人とは大人の関係があって。
なんでそんなふうになったのか、よく分からないんだけど。
「う、うん。まあ仕事は、楽しくしないとな。ははははは!」
ここは余計なことは言わずに、笑って胡麻化してしまおう。
急に笑い出した俺を見て首を傾げたけれど、朱宮さんはそれ以上は突っ込んでこなかった。
「ふう。ちょっと酔っちゃった」
「大丈夫? さっきから、結構飲んでるから」
「お店ではこれくらい大丈夫なんだけどね。今日はどうしたんだろ?」
首をかくんと傾けて、なんだか眠そうだ。
「疲れているんじゃないか? じゃあそろそろ帰ろうか?」
「そうね、そろそろ」
映画代はこっちもちだったので、ここは割り勘にしようってことになって。
支払いを済ませて、そろって家路についた。
「じゃあまたね、楽しかった」
「うん、俺もだよ。ありがとう」
駅で別れの挨拶を交わして、お互いに別の電車に乗った。
今日は思いがけない一日だった。
散髪を済ませて、ちょっとアニメの世界に浸ろうかって思っていただけだった。
それがまさか、偶然再会した彼女と映画を観て、晩ご飯まで一緒になろうとは。
不思議だな、こんな一日もあるんだ。
ゆらゆらと電車に揺られていると、朱宮さんからメッセージが入った。
『はあい、真理だよ。今日はありがとう。またどっか行こうね』
またどっか、か。
きっと社交辞令だろうけど、そう言ってもらえると、悪い気はしないな。
『こっちこそありがとう。またね』
そう返すと、またお返事が。
『お礼に、写真送るね』
…………へ? なんだって? 早速?
ピコン! ピコン!
スマホ画面に、次々に写真が写されて。
おいおい、これ……大胆過ぎないか?
ぼわわっと顔が熱くなる。
『くず100』のヒロインであり美形エルフの『レオーナ・クレイン』のコス写真なんだけど。
見せブラに近い衣装で胸の谷間が露わだったり、多分見せパンだろうけど、短いスカートの下から下着がチラリと見えてたり。
甘い表情でポーズをとっていて、蠱惑的この上ない。
かなりエッチだ。
どっかで見たことのあるシーンの再現なのだけど、アニメの中で主人公に迫っていた時以上に、お色気度が半端じゃない。
『これ見せるの長船さんだけなんだけど、どう?』
こんなのをSNSとかに上げたら、たちまちフォロワー数が激増してしまいそうな気がする。
朱宮さん、酔いが覚めて後で、俺にこれを送ったことを後悔しないといいなあ。
どうと訊かれても、感想をそのまま書くと、セクハラ一直線になりそうな。
『いいと思うよ。クレインにそっくりだし、アニメに出てきてた衣装だね』
目いっぱい自分を抑え込んで、無難に返事をする。
『じゃあこれは?』
次に送られてきた写真は……えっ、手ブラ!?
ベッドの上で、白いミニスーカート姿で両膝をついて、裸の上半身を手で隠している。
これ、滅茶苦茶人気があった回の再現シーンだ。
こんな格好は外ではできないだろうし、きっとSNSに載せることもできないよな……
周りにも人がいる電車の中で、挙動不審者になりそうなほどに動揺している。
せめてこれ、家に着いてからにして欲しかったなあ。
『よく似合ってるけど、あまり他では見せない方がいいと思うよ』
『もちろん。こんなの長船さんだけだよ』
お互いに『おやすみ』を送り合ったあとも、しばらくは心臓が飛び跳ねたままだった。
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