14
「え、あーごめん。放課後は家に妹待たせてるからムリ」
「そうなんだ。わかった」
びっくりした。急に放課後遊びに行かないだなんて言うんだもん。
「だったら今週末は?」
え、まだ続くんだ。
「いや、土日も親いないから家いないとなんだよね。折角誘ってくれたのにゴメンね?」
「あ、ううん。こっちこそ突然誘ってゴメン。でも都合があったら」
「うん? うん、そうだね。合えばね」
そうして、私を遊びに誘ってくれた同じクラスの男子は教室から去って行った。
うん? 詳しく聞かなかったけどこれって、違うよね? みんなで遊びに行くから私もどうって話だよね? 二人っきりでとかじゃないよね? どっちにしろ無理なんだけど。私と二人で遊ぼうなんて奇特な男子、いるハズないもんね? 私の自意識過剰だよね? ね?
と、そんな事がありつつも平和に、私の中二は、シノの小三は過ぎていくのでした。
「……あれ、シュン君?」
「あ、リノ姉ちゃん」
冬のある日、意外なところでシュン君と会った。
「こんな時間にどうしたの?」
「えー……っと」
もうすぐ日付が回る。そんな時刻にコンビニの前でシュン君はウロウロしていた。あまり良い事じゃない。
え、私? ……勉強の合間に肉まんが食べたくなりまして。ちゃ、ちゃんとお母さんには一言言って出てきたから! それよりもシュン君の話。シュン君は気まずそうにしていたけど、ちゃんと答えてくれた。
「お母さんの友達が来たから、2時間ぐらい外で時間潰しておいでって」
「そう、なんだ」
こんな真夜中に小学生が、どこで時間を潰せと言うんだろう。
「あとどれくらい?」
シュン君は、ガラス越しにコンビニの壁に掛かった時計を見る。
「1時間」
「そっかー。店の中には入らないの?」
「お金、ないし」
「そっかー」
まあ、こんな時間に小学生が一人でいるのも不審な目で見られちゃうよね。
でもなぁ。シュン君の恰好。室内ならともかくトレーナーに長ズボンというだけの出で立ちは、外では寒そうだし実際カタカタ震えていた。そういう私は、パジャマの上に一枚着込んで更にダッフルコート。最近買って貰ったやつでデザインが可愛いし、生地も柔らかで手触りが良く、なにより温かかくてお気に入りだった。
私はしばらく考えた末
「ね、シュン君少し待っててね」
「? うん」
私はコンビニに入ると、肉まんを一つ、そしてシュン君の好きなココアをペットボトルで二つ買って出てくる。
「はい、シュン君」
私はシュン君にココアを投げる。
「え? わ!」
シュン君は驚きながらもキャッチする。
「飲んでいいよ」
「え、でも僕お金……」
「今日はお姉さんの奢りだよ。その代わりにさ」
「なに?」
「少し私の話し相手になってくれない?」
あまり長い間居座っても目立つので、私達はコンビニから近所の公園に移動していた。
この小さな公園に私達以外誰もいない。街燈が一つあるだけだったけど、周囲の建物が明るいので恐い印象はなかった。その代わり、ビルの切れ間から観える夜空には星どころか月も見えなかったので風情もなかった。
シュン君はココアにまだ手を付けていない。代わりに両手で包むようにして暖を取っている。それでもまだ小刻みに震えていた。
私はダッフルコートのフックを外して前面を開く。そして
「ねえ、シュン君?」
「なに?」
「ほら、おいで」
私はコートの裾をペラペラとめくった。それで私の意図を察したのだろう、シュン君は嫌がった。
「さすがにそれは恥ずかしいよ?」
「誰も見てないって。ほら、ずっとこのままだと私も寒くなっちゃうから。……もぅ、えい」
「わ!?」
私はダッフルコートのポッケに両手をつっこみシュン君に駆け寄ると、許可を取らずに背後から包み込んだ。
「はい、捕まえた♪」
「ちょ、リノ姉ちゃん、恥ずかしいってば」
「恥ずかしがらなくていいじゃん。二人だけなんだし。あーあ。シュン君ってばすっかり冷たくなって」
シュン君の冷え切ったホッペに触れる。私の手の平から熱を奪っていく。
「……」
私が顔をペタペタ触っているというのにシュン君が無言だったので、不思議に思いシュン君の顔を覗き込んだ。見ると、眉を顰めて私と目を合わそうとせず、そっぽを向いてる。あ、コレ、不機嫌な時のヤツだ。
シュン君が不機嫌になるのは珍しいので、さすがに悪い気がした。私は耳元で謝る。
「ゴメンね、シュン君。調子に乗り過ぎた。ほら、これでも食べて機嫌直してよ? ほら、あーん」
私は買った肉まんを一口サイズにちぎるとシュン君の口に近づけた。シュン君は少し躊躇っていたようだけど、やがて口を開けたのでその口に熱を帯びた肉まんを押し込む。その時少し唇に振れた。乾燥していて、少し荒れていた。
また肉まんをちぎって、今度は自分の口に放り込む。次にシュン君、次に私と繰り返していたら、あっという間に食べ切った。
「あー美味しかった。シュン君は?」
「……美味しかった」
「そう。ならよかった。あ」
指先に肉まんの皮が張り付いていた。それを私はぺろりと舐めとった。
肉まんが効いたのだろうか。シュン君の冷え切っていた体も徐々に温まってきて、今では熱いぐらいだった。
「シュン君温かーい」
「……お姉ちゃんも温かいよ」
お。口を聞いてくれた。少しは機嫌が直ったかな。
「そっか。なら良かった」
子供特有の高い体温。何より人の温もりに気持ちが落ち着く。
シュン君がダッフルコートの合間から私の顔を見上げた。
「リノ姉ちゃん、いつもよりいい匂いしてる」
「そう? ふふ、ありがと。お風呂上りだからかな? 今使ってるシャンプーすごいイイ匂いしてお気に入りなんだ。今度シュン君にも使わせてあげるね」
「え? 僕はいいや。……あーあ、早く大人になりたいや」
唐突に、シュン君が言った。
「大人に?」
「うん、リノ姉ちゃんみたく」
「私なんて、全然まだまだ子供だよ」
私が大人だったなら。だったならどうしてただろうか。
正面切ってシュン君のお母さんに抗議してたろうか。
こんな公園じゃなくてもっと温かい場所に連れて行って温かくて美味しいものを食べさせてあげれてただろうか。
どちらも今は出来てないけども。何かシュン君のためにしてあげたいと思ったところで、同じコートに包まり、一緒に肉まんを食べて、寂しくならないように一緒に時間が経つのに付き合うぐらいしか出来なかった。
「そんな急いで大人にならなくて、いいんだよ?」
そう言ってシュン君の頭を撫でると、不満そうに私の顔を見上げた。その顔に仕方がないコだなぁと、苦笑いを返す。
シュン君が、こんなに急いで大人になりたいだなんて思わなくて済むように、もっと私が頑張らないと。
だって私にとってシュン君は弟みたいなものだし。シュン君にとってもお姉ちゃんみたいな存在なんだから。頼りになる存在じゃないとだよ。
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