12
「どーよ!」
「うんうん似合うよ」
パシャパシャ写真を撮り続ける両親は脇に置いておいて、得意げに真新しくて体に不釣り合いなサイズのランドセルを背負って、体を左右にフリフリしてポーズを取り続ける妹。
色はパープル。あと一年遅ければわたしのランドセルをシノに譲れたんだろうけど、わたしのランドセルは青だから、結局は新しいランドセルを買ってそうだったな。
そんなこんなで、無事シノたちは卒園し、ピッカピカの一年生となったのだった。
入学式の日、わたしと同じ学校に通えるとウキウキしてたらしいシノ。その様子を観てると、さすがのわたしもちょっと妹が可愛く思えた。最近は生意気で小憎たらしいなんて思っててごめんよ?
「じゃ、先に行ってるね」
「うん、いってらっしゃい。待っててね」
と、わたしは在校生として新入生たちを出迎えるため、先に学校に行く。
無事、入学式は終わりわたしは家族と合流、ニコニコの妹たちとパシャパシャと写真を撮り続ける。
「あ、シュン君だ!!」
「え?」
わたしはシノの視線を目で追う。
すると、確かにランドセルを背負ったシュン君がいた。同じ学区だったんだ。
テンション上げ上げ中のシノがシュン君に向かって突進していく。
わたしも慌ててシノを追いかける。
「シノちゃん、お姉ちゃん」
一方シュン君の方は浮かない表情だった。
「ね、お姉ちゃん。シノね、シュン君と同じクラスになったんだよ!」
そう自慢げに私に報告する。
「へえ、良かったね。シュン君、これからもシノと仲良くしてあげてね」
「う、うん」
わたしは腰を折って、シュン君と視線を合わせるとシュン君の頭に手を優しく乗せた。
「遅くなったけど、シュン君入学おめでとう。同じ学校になれて嬉しいよ。これから一年、わたしとも仲良くしてくれるかな?」
そこでようやく、照れくさそうに
「う、うん。ぼくも嬉しい。よろしくね?」
とシュン君は笑顔を浮かべて返事をした。
「……ねえ、シュン。この子たちは?」
と、ようやくシュン君の横に立っていた女の人が口を開いた。
金髪で、派手な感じの人。お母さんと較べると、随分若い気がする(お母さんごめん)。
「保育園のトモダチとそのお姉さん」
「あら、そうなの。仲良くしてくれてありがとうね」
と、そっけない言葉を口にした。
「いえ……」
化粧品の匂いが鼻を強く刺激する。
ようやくうちの両親も追いついた。親同士の挨拶が始まったが、当人二人は関係なく話し続ける。
「ランドセル、お揃いだね!」
シノが、嬉しそうに言う。
「そうだね」
シュン君は気まずそうに答えた。
そんなシュン君のランドセルは、傷んだ感じのパープルのランドセル。ところどころ、色が剥げている。誰かのお下がりなのは明白だった。
お下がりが悪いわけじゃないけど、新品のシノと並ばれるとさすがに痛ましいものがある。
それに、色もあまり気に入ってないらしい。まあ、今でこそとても可愛くて似合っているけど、男の子だからね、気になるんだろう。
わたしはシュン君に構いたがるシノを背後から持ち上げる。
わたしに持ち上げられながら首だけ捻ってわたしを見る。
「なーに、お姉ちゃん」
「嬉しいのは分かるけど、シュン君困ってるでしょ?」
「そうなのシュン君?」
そう聞かれて困った様子のシュン君は返事できずにいた。
「同じクラスなんでしょ?時間はいっぱいあるんだから、今日はハイ、ここまでー」
「うー、じゃあ、また明日」
そう言ってわたしに抱えれらたままシュン君に手を振るシノ。
「うん、またね。シノちゃん。お姉ちゃん」
「うん、また明日。シュン君」
ちょうど大人同士の話も終わったようだった。
最後に、シュン君のお母さんがわたしの方を一度見た。けれどもすぐに興味を失ったようで視線を外すとシュン君を連れて違う方向に歩き出した。
「お待たせー」
「ううん。大丈夫だよ」
「お姉ちゃん、遅い」
わたしが遅れて図書室を訪れると、シュン君はフォローを、シノは文句を言った。
結局シノは学童保育を利用しなかった。わたしがいるから大丈夫でしょうという親の判断。
いや、確かにわたしも学童使わなかったけどシノがいたからお母さん家にいたじゃない。わたしだけならいざ知らず、シノがケガをしたりした時にちゃんと動けるかと思うと自信がない。正直恐い。だからその事を両親に正直伝えたのだけど「お姉ちゃんなら大丈夫大丈夫」で片づけられた。信頼してくれるのは嬉しいけど、正直困るって。
という訳で、結局は親に押し切られて放課後はシノのお守りである。イヤではないけど。
放課後、私の授業が終わるまで図書室で待ってもらい、一緒に家に帰る。それが私たちの日常になった。
「シノ、今日は何か借りるの?」
「ううん。借りてる『ニンジャ入門』がまだ読み終わってないから大丈夫」
そう言って、それまで読んでた本を本棚に戻しに行った。
「シュン君は?」
「これ、借りるから少し待って」
そう言って貸出カウンターに本を持っていく。ちらりと見えた表紙のタイトルは『簡単☆クッキング入門』という本だった。
シュン君が本を借りるのを待って、三人で下駄箱に行き、校門をくぐり、帰路に就く。
そしておうちに着く。私は首からぶら下げていた鍵を取り出すとドアを開けて中に入る。
「ただいまー」
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
そして三人、手洗いうがいをした後、リビングのローテーブルを囲むように座って、ランドセルの中身を拡げる。
「シノ。先生からおうちでやる事言われなかった?」
「今日はないよ」
「シュン君、ホント?」
「あの、今日はホントです」
「ちょっとおねえちゃん! なんでシュン君にも聞くの!」
「昔嘘ついたからだよ」
シュン君も学童を利用していなかった。わたしの家に来るまでは、下校時刻ギリギリまで図書室で粘ってから帰っていたらしい。とはいえ、それも数週間の話。同じく図書室を利用していたシノがおうちに誘うのはそんなに掛からなかった。
わたしとしても、一人も二人も変わらない……どころか一人でシノの面倒を見るよりもちゃんとシノのフォローをしてくれるのでむしろ助かっている。
「でもそっか。じゃあ、二人とも、今日は何する?」
「お絵描きしててもいい?」
「絵具じゃなきゃね。シュン君は?」
「借りてきた本にする」
「ん、分かった」
そうしてシノは部屋にお絵描き道具を取りに向かい、私は台所から今日の3時のおやつをリビングに運び、シュン君は静かにランドセルから本を取り出すと読み始めていた。それぞれが没頭し始めるのを見届けると、わたしも自分の宿題に手を付けた。
そういう生活が1年間、私が小学校を卒業するまで続いた。
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