10

小学校が終わってママの代わりに保育園に迎えに行くと、妹のシノは砂場にいた。夢中で山にトンネルを掘っていた。男の子と。

「シノ~」

わたしが声を掛けると顔をパッと上げた。

「帰るよー」

「わかったー。じゃあね」

「うん、バイバイ」

シノは一緒にいた男の子にさよならすると、すぐにわたしに抱き着いてきた。ちょっと、服が汚れるってば。

「荷物、取ってくるよ」

「うん」

わたしはシノを引っぺがすと教室の棚から荷物を持ち出し、お迎えの確認の紙に時間と名前を書き込む。

「お待たせ。それじゃ、帰ろうか」

「うん!」

シノは元気よく返事を返すと、保育園の門に向かって歩き出した。

わたしはふと気になって振り返る。

その男の子は、一人になっても砂場でトンネルを通そうとしていた。

「ねえ、シノ。一緒にいた男の子、誰?」

「んー。おともだちー。今日新しく入ってきたの」

「へぇ。そうなんだ。仲良くなれそう?」

「うん!」

シノは笑顔で答えた。わたしはもう一度振り返った。

男の子っぽいデザインのズボンを履いてたから男の子だと思うけど、女の子だと言われても信じれるぐらい可愛い子だった。

髪は長めで、線は細め。ホッペは柔らかそうで子供らしくバラ色だった。

その男の子は難しそうな表情を浮かべていた。

作っていた砂の山を見ると、トンネルが向こうにつながる前に崩れていた。


それからわたしが保育園に迎えに行くと、シノはよくその男の子と一緒に遊ぶようになった。

本当に仲良くなったらしい。

「あ、シノちゃんのお姉ちゃん」

あと、男の子もわたしの事を覚えていた。

「シノちゃんおトイレ」

迎えに来たのにシノが見つからなくてキョロキョロしてたわたしを見て、声を掛けてくれたらしい。

気の利く子だなと思った。

「教えてくれてありがとう。君、名前は?」

「シュン」

「あ。おねーちゃんだ」

名前を教えて貰ったところでシノが戻ってきた。

「帰るよ。荷物取ってきて」

「わかったー」

シノは教室の荷物置き場に駆けていく。わたしもいつもの送迎確認の紙に書き込む。

「忘れ物、ない?」

「うん」

シノはシュン君の方を向くと手を振る。

「またね」

「うん。また。お姉ちゃんも、また明日」

「え? あ。うん、また明日」

わたしも手を振ってくれてるシュン君に手を振り返す。


……うっかり返事しちゃったけど、これは明日も迎えに来た方がいいのかな?




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