絶望しない

あの日の後、ヴァルトール公爵家は処罰され、両親は処刑された。


そして、私は平民になった。




世界に絶望したあの日、私の世界は終わったと思った。




両親がいなくなり、身分の差でルイズ様との婚約は王家から破棄が命じられた。


毎日死んだ顔で過ごしていた。



しかし、両親が亡くなってから半年後、一通の手紙が届いた。



ルイズ様からだった。



「リーシアへ


過去は変えられなくても、未来は変えられるんだ。


例え、夢で見た未来だとしても。


リーシア、世界に絶望するにはまだ早い。


リーシアの未来を輝かせられるかは、リーシア次第だ。


しばらく私はリーシアの頭を撫でてあげられない。


それでも、必ずいつか迎えに行くから、それまでどうか生きていて。」



ルイズ様は優しくて、私に願ったことは「生きていて」のたった一言だった。


それがどれほど私の支えになったか、きっとルイズ様は知らないだろう。


そして、手紙を受け取った夜に私はある夢を見た。


平民になった私の家のチャイムが鳴り、玄関の扉を開ける。


夢の中では客人の顔は見えなかったが、客人を見た私の笑顔が、私の嬉しそうな顔が、誰が尋ねてきたかを示している気がした。


それでも、その未来が「何日後なのか」「何年後なのか」は分からない。


そして、【その未来が絶対に起こるのかも】。


だって、ヴィルトール家の予知夢は起こらない可能性があることを知った。


それでもあの日見た恐ろしい夢ではなく、今見た夢は【起こって欲しいと願ってしまう夢だった】


私はルイズ様から頂いた手紙をもう一度読み返す。



「リーシア、世界に絶望するにはまだ早い。


リーシアの未来を輝かせられるかは、リーシア次第だ。


しばらく私はリーシアの頭を撫でてあげられない。


それでも、必ずいつか迎えに行くから、それまでどうか生きていて。」



今まで嘘のついたことのないルイズ様からの「迎えに行く」はきっと本心で。


ならば私に出来ることはルイズ様がチャイムを鳴らした時に……もう一度私に会いにきてくれる時に、笑顔でルイズ様を迎えられるように生きることだけだろう。



だから、貴方が迎えにきてくれるまで……


それまで絶対に生きてみせるから。


笑顔でいられるようにしてみせるから。


どうかこの予知夢だけは起こりますように。


ルイズ様ともう一度会うことが出来ますように。


それだけを願って、私は今日も眠りにつくのだ。

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