第二章

第7話 もう二日目、まだ二日目。

 いったい昨夜は何回抱かれたのだろうか――。

 

 上書きしたい気持ちはやまやまだったが、綾乃のことを考えるとまずは睡眠だ。死んだように安らかな寝顔を眺めながら、ふつふつと湧き上がる嫉妬のエネルギーを必死に抑える。ちょっとインターバルの空いた二度寝にしけ込むのが一番だがそう簡単にはいかない。


 D君からのメールが入る。

 

(さっきチェックアウトして出発しました。

 お二人のお陰で最高の合宿になりました。

 みんな喜んでいます。

 夢みたいでした。

 またこんなチャンスありますか?)


 (もちろんあるさ)


 亮介はそう呟き、そんなチャンスのことを考えながらゆっくりと目を閉じた。



 ◆



 しまった、寝過ぎた――。


 焦って時計を見ると朝10時を少し回ったところだった。綾乃が眠りについたのは6時過ぎだったから4時間弱の睡眠、むしろ寝足りないぐらいだろう。それでも、リフレッシュして気分は良い。疲れも全く無い。

 感情を失ってしまいそうになるほどの快楽で、度を越した量と回数の脳内物質の分泌。それが睡眠の質や体力回復に影響していないと考える方が不自然であろう。


「亮介、お風呂行くけどどうする?」


「あ……ごめん寝てた……うん、行こう」



 もう何往復目だろうか、この長い廊下も見慣れて来た。

 

 ところどころに残された小さなあざは、その後ろを歩いている亮介がつけたのではない。

 昨晩から綾乃が何をしていたかなんて、まず誰もわからないはずだ。

 半日近く発情している身体で、ホルモンはどれほど活性化しているのだろうか。


 今日もすれ違うのは男性ばかり。昨日より人数が多いのは土曜日だからか。

 

「この様子だと貸切状態ってことはないかもね」


「ほんとだね」


 

 予想は当たった。引き戸を開けると、湯の中と外で7〜8人ぐらいの男性がいるのがわかる。


(綾乃は大丈夫か)


 亮介の心配をよそに、綾乃はせっせと浴衣の帯を解きながらタオルで巧みに体を隠し、棚に背を向ける。


「どうしたの?」


 あっけに取られてまだ浴衣のままの亮介を見て綾乃がキョトンとしている。


「あ、ああごめん、着替えるの速っ!」




 視線を感じながら目を伏せがちにして、人が少ない場所に腰掛ける綾乃。まずは膝まで。引き戸が開いてまた新しい人が入って来た様子だ。ますます紅一点の度合いが高くなる。


「本当に女の人いないね」


「いないね。どう、見られている気分は?」


(なんか今わかったんだけど、好みじゃない人に見られるのってあんまり好きじゃないかも……)


 小声で綾乃が言う。そういう認識は亮介にはなかった。むしろ、視姦の対象になっている綾乃を見るだけで満足で、その人数は多ければ多いほど良い、そんな身勝手な論理だった。


(そうなんだ。それならもう出る?)


「大丈夫、ちょっと慣れたから」


 綾乃はそう言うと、手拭い大のタオルを外し、両手で胸と秘所を隠しながら肩まで浸かった。


「え!」


 驚きながら亮介も浸かる。

 すかさず隣にいた初老の男性が話しかけてきた。


「夫婦で温泉かい? いいね〜、美人な奥さん。度胸あるね」


「ありがとうございます。自分もこの度胸に惚れたんです」


 周囲の男性達が我も我もと綾乃に話しかける。幸い、気持ちのいい人たちばかりで綾乃を不快にさせるようなことはなかった。


「でも……やっぱり熱い……かも……」


 困ったような笑顔で亮介を見る綾乃。


「うん、そうだよね。じゃ、行こうか」


 岩の上に置いておいたタオルを申し訳程度に身に纏い、片足ずつゆっくりと立ち上がる綾乃。男性陣は固唾を飲んで見守る。


「じゃ、みなさん、ごきげんよう」


 浴衣姿の綾乃。笑顔で風呂を後にする。



 ◆



「綾乃……昨夜もよかったけど、お風呂でも素敵だった」


「ありがとう……。なんか大胆になっちゃった。へへ」


 たまらず固く抱きしめる亮介。

 

 まだ二日目が始まったばかりというのに、この綾乃はどうだ。

 お預けの限界はとうに突破しているから、亮介は有無を言わさない。

 空腹のことなんて全く頭にない二人。

 このままいつまでも何回でも――。

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