第5話 曳船

 「誰から来てくれるのかな……?」


 笑顔の綾乃。しかし誰も動けない。それはそうだろう。そもそも、他人同士ならいざ知らず、サークル仲間の前だ。

 亮介は綾乃の後ろに膝立ちになり、帯をほぐす。

 そして浴衣を剥ぎながら綾乃をM字開脚させるとまた離れていった。


「あん、もう……」


 5人全員一歩も前に出ないものの、ひん剥いた眼球は前へ前へと飛び出しそうだ。



 正面にいたYとMの手を引いて寄せ、そのまま胸に当てる綾乃。

 その目はその他3人を見まわした後、仰向けに倒れていく。


「……キスとかいいんですか?」


 D君が恐る恐る聞く。


「フフ……うん……」


 亮介はKと目が合うと、(行け)と目配せして部屋の明かりを少し暗くした。


「君は行かないの?」


 最後の一人Cに話しかける。


「……はい、しばらく見ていたいです」


 綾乃と4人が絡み合い始めるこの構図は、前回のS君やJさんたちの時と同じだが、まったくスムーズさに欠けていて、ぎこちない。しかしながらそれぞれの発する熱量はすさまじく、部屋の暖房が不要なほどで、早くも亮介に新しい体験を予感させていた。


 綾乃の四肢の間にはそれぞれ誰かがいて、口や手を使って一心不乱に綾乃を感じている。


「ぁあ……素敵よ……みんな」


 もはや母性を孕んだような綾乃の声。薄暗さの中で見える非現実的なまでに艶めいた光景。血気盛んな青年にとって、経験したことのないほどのトリガーとなることだろう。その刹那だった。


「あ……」


 Dがタオルを持ってそそくさと風呂場へ向かう。亮介は、(そりゃそうだろう。この年でこんな刺激的なもの体験したら俺だってそうなるよ……)と理解した。


 Yが綾乃の唇を引き継ぐ。Mはゴムを装着すると浴衣を脱ぎ捨て、綾乃の腰をしっかりと掴んだ。


「あ――」


 綾乃は一瞬息を止めたが、Mの動きとともに呼吸を速めていった。


「Mちゃん、すごいわ……」


 綾乃はさっきまでの余裕を失いつつあり、反比例するように学生たちは徐々にモードに入っていった。Dはシャワーから戻ってくると亮介の隣に座った。


「何回してもいいんですか?」


「え!? あ、ああ、もちろん。ていうか、たくさん綾乃を歓ばせてくれたら嬉しいよ」


 その様子を見ていたのかどうか、花の蜜に吸い寄せられるミツバチのようにCが綾乃に近づいていく。綾乃の嬌声はまた一段と高くなる。

 



(これで本格的に回り出したな……)


 そう感じた亮介は、隣の部屋に移る。いつかの一樹よろしく、襖を少し開けて第三者の視点での観察を始める。

 亮介にはしてみたいことがあった。

 

 

 隣室が盛り上がるその一方で、自分は眠りに落ちてしまう。

 スズメの啼き声で目を覚ますと、明るくなり始めた部屋で綾乃が鳴かされている。

 目にクマを作りながら、恍惚としたその瞳にはただ只管ひたすら快楽の光しか宿っておらず、

 さながら別人の様相を呈している。

 この世の肉欲全てを味わい尽くすまでなり振り構わず――。


 

 そんな綾乃の姿を見てみることができたなら、もう思い残すことなんて無いんじゃないかとさえ思っている。亮介にとっての寝取られの究極目標はそんな地平に在るのかもしれない。

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