第24話

バース子爵領との協力が決まったことで、ナート男爵領は新たなプロジェクトに向けて動き出した。灌漑システムの導入計画は、バース子爵領の農地を再建するだけでなく、技術や知識を両領地間で共有する大規模な試みだった。


「ルーク殿、こちらが灌漑システムの試作設計図になります。」


ジルが広げた設計図には、水路や貯水池の配置が詳細に記されていた。効率的に水を供給するための新技術が盛り込まれており、これが成功すれば周辺地域にも応用できるものだった。


ルークは図面を見ながら、具体的な問題点を指摘した。


「ここだ。バース子爵領の北西部は地形が険しい。この水路は通しづらいだろう。別のルートを検討する必要がある。」


「確かに…。それならば、高低差を克服する案を考えます。」ジルはすぐにメモを取り、改善案を練り始めた。


一方、リックは物流計画を進めていた。灌漑設備の資材や技術者を運ぶためには、バース子爵領との交易ルートを再整備する必要があった。


「ルーク殿、バース子爵領への資材輸送には、南東の旧街道を活用するべきだと思います。ただ、長い間使用されておらず、補修が必要です。」


「補修作業の見積もりは出ているか?」


「初期費用として約500万リンほどかかりますが、それで短期的な輸送効率は大幅に向上します。」


「わかった。まず旧街道の補修に取り掛かろう。資材が届かなければ、計画全体が止まってしまう。」


一方プロジェクトが進む中、ナート男爵領内でも徐々に変化が起きていた。領民たちはルークの取り組みに感心しつつも、バース子爵領への協力について疑問を抱いていた。


「自分たちの税金が他領地のために使われるなんて、納得できません。」と、不満を口にする者もいた。


それを受けて、ルークは村々を訪れ、領民たちに直接説明を行うことにした。集会場に集まった村人たちを前に、ルークは真摯な態度で語りかけた。


「皆さんのご不安は理解しています。しかし、バース子爵領との協力は、ナート男爵領にとっても大きな利益をもたらします。南部全体の経済が成長すれば、我々の生活も豊かになります。」


「それは本当なんですか?実際に成果が出る保証はあるんでしょうか?」村人の一人が手を挙げて質問した。


ルークは力強く頷いた。


「私は約束します。成果を目に見える形で示します。そのためにも、皆さんの理解と協力が必要なのです。」


彼の熱意に触れた村人たちは、次第に納得し始めた。


「わかったよ。信じてみるさ、若様を。」


「成果が出たら、私らも恩恵にあずかれるんだろう?なら協力するよ。」

______________________________

プロジェクトが順調に進む中、一つの報告がルークの元に届いた。


「ルーク殿、バース子爵領の北東部に不審な集団がいるとの情報が入りました。」リックが緊張した表情で伝えた。


「不審者?どのような連中だ?」


「詳しいことはわかりませんが、どうやら周辺村を荒らしている盗賊団の可能性があります。数十名規模で、灌漑システムを狙ってくる恐れがあります。」


ルークは眉をひそめた。バース子爵領の協力を進める中で、このような事態は想定していなかった。


「すぐに対策を講じよう。リック、警備の強化と現地調査を進めてくれ。マカドゥ、ナート領からも追加の兵を派遣する準備を頼む。」


「承知しました。」二人はすぐに行動に移った。


そして数日後、リックの報告により、盗賊団が本格的に灌漑システムの資材を狙っていることが判明した。これを受けて、ルークは自ら指揮を執る決断を下した。


「彼らを放置すれば、プロジェクトだけでなく領民たちの安全も脅かされる。迎撃する。」


ジルやリック、そしてバース子爵領の協力者たちも動員され、盗賊団を迎え撃つ作戦が展開された。


「ルーク様、敵の数は多いですが、地形を利用すれば勝機はあります。」リックが作戦案を示した。


「わかった。その作戦でいこう。ただし、領民に被害が出ないよう慎重に動くことを忘れるな。」


夜明けと共に始まった戦いは激しいものだったが、ルークたちの周到な準備と指揮のもと、盗賊団は次第に追い詰められていった。最終的に、彼らは捕縛され、灌漑プロジェクトは無事守られた。


こうして盗賊団の問題を解決したルークたちは、プロジェクトをさらに加速させた。バース子爵領との協力は南部全体に波及し、ナート男爵領は確固たる地位を築くことになるかもしれない。


「これで南部の発展は確実だな。」リックが笑みを浮かべて言う。


「まだ始まったばかりだよ。」ルークは笑みを返しながら答えた。


こうしてルークの挑戦は続く――未来の繁栄を信じて。

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