第10話
その数日後、リル公爵の領地に向かうため、ルークとマルクは準備を整えた。馬車に乗り込み、道中の風景を眺めながら、ルークはこれからの社交会について少し緊張した様子でいる。
「ルーク、あまり肩に力を入れすぎないように。自然体でいいんだ。」
マルクがやさしく声をかけると、ルークは少し笑顔を見せた。
「はい、父様。ですが、やはり社交会というのは、まだ慣れませんね。」
「ふふ、誰も最初から完璧ではないさ。経験を重ねていけばいい。」
ルークはその言葉に頷きながら、社交会場となるリル公爵邸を思い浮かべる。豪華な装飾と優雅な雰囲気が漂う公爵邸で、貴族たちがどのように振る舞っているのかを想像し、自分がその場でどのように振る舞うべきか考えを巡らせる。
数時間後、リル公爵邸に到着し、玄関ホールに案内されると、すでに多くの貴族たちが集まっていた。豪華なシャンデリアが輝き、音楽が優雅に流れる中、カラフルな衣装をまとった貴族たちが談笑している。
「ナート男爵、ようこそお越しくださいました。」
迎えに現れたのは、リル公爵の執事であるダンテという老紳士だった。ダンテは礼儀正しく頭を下げ、マルクとルークを会場の中央へと案内する。
「おぉ、ダンテ殿。いつもお世話になっております。」
マルクが礼儀正しく応じると、ダンテは微笑みながらルークにも視線を向ける。
「そちらが噂のルーク様ですね。お噂はかねがね伺っております。若くして経済を盛り上げておられるとか。」
「ありがとうございます。まだまだ学ぶべきことばかりですが…」
ルークが謙遜の意を込めて答えると、ダンテは興味深そうに頷いた。
「本日はリル公爵が特にお会いしたがっておりますので、お二人ともどうぞ楽しんでいってください。」
ダンテに案内されながら、会場の中央に歩みを進めるルークとマルク。すると、周囲の貴族たちが彼らに注目し、囁き合う声が聞こえてきた。
「噂のナート男爵家の若き後継者…」
「ハンバーガー店やカフェで成功を収めたとか…」
一部の貴族たちは興味深そうにルークを見つめているが、その中には冷ややかな視線も混じっていた。特に、カムリ男爵家の子息であるアルベールが、少し皮肉めいた微笑みを浮かべて近づいてくる。
「君がナート男爵家のルーク殿か。噂は聞いていたが、どうやら商売が得意らしいな。」
アルベールの言葉にはどこか棘があり、ルークはその挑発的な態度に一瞬戸惑った。しかし、すぐに落ち着きを取り戻し、丁寧に挨拶を返す。
「ありがとうございます。皆様のご支援のおかげです。」
その冷静な対応に、アルベールは少し驚いた様子を見せるが、すぐに表情を引き締めた。
「ふん、なるほど。だが、我が家は君のような商売のやり方には興味がない。貴族としての誇りを持つのが本来の姿だと思っている。」
ルークはその言葉に何か言い返したい衝動を抑え、冷静な態度を崩さずに頷いた。
「もちろん、誇りを持つことは重要です。ただ、私にできることで、領地に貢献できればと思っております。」
すると、遠くからリル公爵、ハマス・フォン・リルが歩み寄り、二人の会話に割って入った。
「アルベール、ルーク君をあまり困らせるでない。今日は楽しい社交会だ。そんな堅苦しい話は抜きにしよう。」
リル公爵は優雅な微笑みを浮かべ、ルークに向けて話しかける。
「ルーク君、君の活躍は南部でも話題になっているよ。ぜひ、今後も一緒に南部を盛り上げていこう。」
その温かな言葉に、ルークは少し緊張を解いて深くお辞儀をする。
「ありがとうございます。私も微力ながら尽力させていただきます。」
その後、ルークはリル公爵や他の貴族たちと和やかに会話を楽しみ、徐々に周囲との距離を縮めていくことができた。特に、ハリス子爵家の娘であるエリザベスや、マイナ伯爵家の後継者であるリチャードとは、共通の話題で盛り上がり、親しくなるきっかけを掴むことができた。
社交会が佳境に入る頃、リル公爵が乾杯の挨拶を行い、会場は一層の盛り上がりを見せた。ルークはこの場での経験が自信となり、自らの領地を盛り上げる決意を新たにした。
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