45 魔神 ③
技術の差は圧倒的でも、結局出力で敵わないのでは意味がない。
今の私のマナは、前世の最終的なマナにはまだまだ及ばない。
それとほぼ同等のマナ総量をもつ、今の魔神ザガンを超えることはできない。
故に、純粋な火力で押し切られると私は弱いのだ。
可能にできる不可能ではないから天魔の加護も使えない。
”お前一人だけならば、逃げることは容易だろう! どうした、逃げればいいじゃないか!”
「適当なことを言ってくれるじゃない」
ザガンの言う通り、私一人なら逃げることは容易だ。
だが、それではクルセディスタの皆が守れない。
ザガンがクルセディスタの森にずっと居座っていたのも、ある意味で屋敷を人質にするためだったわけだ。
どうあっても、最終的にはこうなるのだから。
「何より、それじゃあ貴方を倒せない。私がこの攻撃を避けたら、貴方はこの場から逃げ出すでしょう」
”そうなれば、お前とは二度と会うこともないだろうなぁ”
どれだけ技術で上回っていても、出力で上回れないのでは私はザガンを倒せない。
倒せないのであれば、ザガンの逃走も防げないだろう。
それは、望むところではない。
故にこの場での最善は――
「――正面から、ザガンを倒す」
”ハッ――できるもんなら、やってみやがれってんだよぉ!”
かくして、ザガンは私に光の玉を振り下ろす。
対する私は、全身にマナを巡らせ――勢いよく飛び上がった。
この攻撃を地上で受けるわけには行かない。
余波で屋敷が吹き飛んでしまう。
故に、空中で光の玉を突破しなくてはならないのだ。
”無謀だぜ、それは――!”
「……どうかしら!」
かくして私は、光の玉に突っ込んだ。
◯
――私は、聖女の器であるらしい。
それは、すなわち討伐された魔神が私を器とすることで復活できるから。
そんなものが?
いくらなんでも、そんなものを聖女とは魔神だって呼称しないだろう。
何よりザガン自身が言っていたではないか。
聖女の器を手に入れたことで、人類はようやく魔神と戦争を行う権利を手に入れた、と。
それはすなわち、聖女の器にも何かしらの意味があるということだ。
基本的に、この世界はマナこそが全てだ。
マナがあって初めて、あらゆることに意味が生まれ。
そして、肉体はマナという魂を押し込めるための器でしかない。
だからこそ。
器である肉体にも、何かしら力があれば。
それは聖女の器足り得るのではないか。
天魔の加護を手に入れられること?
前世の記憶を持つ魂でも容易に収めることができること?
否、それが理由だとは思えない。
もしかしたら、それも理由としては存在するのかも知れないが。
もう一つ。
私は、聖女の器が器足る理由に心当たりがある。
それは魔神ザガンを始めて討伐した時。
転生した直後、私は記憶が摩耗するくらいマナを欠損していた。
今とは比べ物にならないくらいマナが少なく。
その量は、同じ年頃の子供と比べても平均程度しかなかったはずだ。
それが、一瞬にしてザガンを討伐できるまでに成長した。
そうする必要があったから。
父様や母様を守るためには、それ以外の方法がなかったから――
「だから――器よ、私の願いに答えなさい! 貴方に窮地で急成長する力があるのなら。今目の前の破滅をひっくり返すほどのマナを!」
光の中で、それを受け止めながら叫ぶ。
「私に、よこしなさい!」
叫びとともに、考える。
もし、聖女の器にそれほどの力があるのなら。
それを、どう表現するべきか。
答えは、決まっている。
「私に、それだけの”才能”があるのなら――――!」
才能。
それ以外に、答えはない。
瞬間。
私の内側からは、力が溢れ出す。
”バカな――ありえない”
ザガンの声が聞こえる。
”如何に聖女の器だろうが、それほどまでの急成長はあまりにも異常! お前は、お前は何をした!?”
狼狽。
それまでの、どこか余裕が滲む驚愕とは違う。
本気で、ザガンはうろたえている。
「才能とは、望んだ人間に望んだ結果をもたらす力よ。人は、努力し上を目指せば力を手に入れる。でも、望まなければ努力なんてしない」
天才は、どこかで諦める。
凡人は、どこかで見切りをつける。
だが――それでも努力を続けたときに、答えをくれるもの。
それが、才能だ。
「そして私は、誰よりも望んできた。誰よりも強さを求めてきた。その意思は――聖女の器によって、才能に変わる!」
そうだ。
女神は私を選んだ。
それは、私が誰よりも聖女の器の力を引き出せるからだ。
この世界で私が最も、私の才能を引き出せるからだ。
「これで――終わりよ」
かくして、私は。
膨れ上がるマナを光にぶつけ、切り裂く。
一瞬の閃光。
直後、それが弾け――ザガンの光の玉は綺麗さっぱり、跡形もなく消失していた。
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