44 魔神 ②

 激闘は続く。

 ザガンのマナは数十に分裂し、それらが一斉に私を狙ってくる。

 対する私は、戦場を飛び交いながらその攻撃をすべて防ぎ、マナを希釈していく。


”オイオイオイ! ふざけてんじゃねぇぞ! 何故殺せねぇ!”


 爆発を、閃光を。

 様々なザガンの攻撃をかいくぐり、また一つにマナをぶつける。

 衝撃。

 マナとマナがぶつかり合う際に、振動が起きるらしい。

 二つの大きな波がぶつかりあって、やがて静かな海に戻っていくかのような。

 そんな感覚を覚える。


”俺は魔神だぞ、人類なんざ餌でしかねぇ! それがこんな小娘一人に! こんな!”

「それは、貴方が弱いからでしょう。戦い方が、まるでなっていない」


 魔神ザガンに、兵法の基礎はない。

 ただ数をぶつけてくるだけの単純な戦術。

 技術に関してもそうだ。

 だが、何より足りていないのは――威力。


「加えて、この程度の攻撃では私の壁を貫通できない。今の貴方の攻撃、貴方の配下のダスタウラスとそう威力が変わらないわよ」

”ふ、ざ、けるなあああああああああ!”


 叫ぶと同時に、無数の爆発。

 これはさすがに防御しないとまずい。

 故に光の壁を周囲に浮かべて――



”なんてな”



 壁を切断する、とてつもなく巨大なマナの斬撃が振り下ろされた。



”ハッ! バカがよ、俺の攻撃の威力がこの程度なわけがないだろうがよ! どころか、いいことを教えてやるよ! てめぇは俺のマナを希釈し続けたが――”


 ――――


”お前が削ったマナは、百のうち一にすら満たねぇ! いいことを教えてやるよ。マナが溢れたのもブラフなのさ! その目的は――お前に俺のマナが”削りきれる”と期待させるため。だが――”


 ――――


”俺のマナは、他の魔神と比べても圧倒的に多い! 死んでもなお、こうして魂の形を維持できるほどに! 他の魔神じゃこうはいかねぇのさ!”


 ああ、なるほど。



「そう、じゃあ想像通りね」



 途端。

 私に振り下ろされていた斬撃が――周囲で巻き起こっていた斬撃が。

 一瞬にして、吹き飛ばされる。


”……てめぇ!”

「貴方がこうして、マナのままでも意識を維持できている理由は――はっきり言って、想像通りだった」


 他に理屈があれば、まだしも。

 だなんて、がっかりもいいところだ。


「結果、貴方のマナ総量は”掴めた”。確かにとんでもない量、今の私では到底届かない量ね。でも――”天魔”」


 途端、私の体を光が帯びる。

 加護の起動だ。



「でも――想像はできる。理解はできる。それが、どの程度の量なのか」



 天魔の加護。

 その効果は、不可能を可能にする力、とでも言うべきか。

 ここ数年、理解のために色々と検証をした結果。

 解ってきたことがある。

 それは、天魔の加護が可能にする不可能は、私の理解が及ぶ不可能だということ。

 たとえば私は料理の知識など、欠片もない。

 だからその料理がどのようにできているか全く理解できないし。

 それによって”料理が不可能である”という事実を可能にすることはできない。

 だが――


「貴方のそれは、私のかつて通った道よ」


 私は、知っている。

 死してなお意識を保つのに、魂を霧散させずに存在させるのに必要なマナの総量がどれほどのものか。

 今のこいつのマナ総量は――私の死ぬ直前のマナ総量とそう変わらない!

 理解した瞬間、私は天魔の加護を伴った魔術で――ザガンのマナを攻撃する。

 それが、


”――バカな!”


 ザガン自身を、穿った。


「本当なら、天魔なしで貴方を討伐したかったのだけどね。でも、それが不可能なら逆に天魔が効果を発揮する」


 ザガンのマナに対する理解を深めた結果。

 私はザガンのマナを直接攻撃できるようになった。

 それが、可能になる不可能だからだ。


「これで、貴方の無敵は意味をなさない。そうなれば、ここまでの戦闘で理解できるでしょう。――貴方の負けよ、ザガン」


 途端、始まる蹂躙。

 私はようやくそこで、手加減を辞める。

 身体強化も、魔術による攻撃も。

 すべて、出し惜しみなく開放して――周囲に浮かぶザガンのマナを切り刻んでいく。


”やめろ! やめろ! クソが、どうなっている! 痛い! 痛みが! 俺の体を――!”

「悪いけど、私は他人を傷つける方法はこれしか知らないの。痛みを伴い、相手を傷つけるという形でしか私は貴方を攻撃できないから」

”――ふざけるなぁ!”


 技巧は、圧倒的にこちらが勝っているだろう。

 ザガンは自分が切り刻まれる間、何ら抵抗という抵抗はできない。

 すでに宣言した通り、ここからは掃討戦だ。

 こちらが一方的に、ザガンを殲滅する戦い。

 もしもザガンに勝ち目があるとしたら――


”そんな事をしても、無駄だ! 俺のマナ総量は他の魔神とはわけが違う!”


 途端、膨れ上がる気配。


”いくら攻撃しようが、俺とお前の間には純然たる出力の差っていう壁があるんだよ――!”


 空に。



 とてもとても大きな、光の玉が生まれた。



”いくらてめぇが俺より戦闘が巧くても、純粋な威力を前にすれば対抗手段なんてねぇ! これで終いだぁ!”


 ザガンのマナを用いた、ただただ”強い”だけの一撃。

 それが、私に向かって迫ってくる――


 ――


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