42 答え

 はっきり言って、答えは最初から決まっていた。

 わからない、というのも嘘ではない。

 しかし、最終的に答えを出さなければ行けない状況に至った時。

 出す答えは、解りきっているような気がしていたのだ。



「――断る」



 その言葉に、ザガンは少しだけ沈黙した後、問いかける。


”ワケを聞こうじゃねぇか”

「まず第一に、私は確かに最強を目指しているし、そのためには自由でなければならないと思っている」

”だったら、柵なんざ全て捨てちまえばいい。それが一番確実な方法だろうがよ”

「――必要ない」


 そう、必要ないのだ。

 言い方を変えよう。


「そこまでする必要がないの。私が私のしたいことをすれば、自ずと私を好ましいと思う人々が私の周りに集まって。それが私の自由を支えてくれる。それが理想よ」

”ハッ、そんな理想。実現するわけねぇだろうが!”

「善意とは、そういうものよ。善意を向け合う者同士がお互いを好ましく思い、つながりを作る。社会とはそうやって作られていく」


 善意に対して悪意を向ける人間へ、善意を向ける必要はない。

 自分が好ましいと思う人間に、相手が喜ぶことをする。

 それだけでいいのだ。

 だって、したいことをするのが自由なのだから。


「人に善くすることも、私の自由の一つよ。だから、隣人を切り捨てるつもりはない」

”偽善だな!”

「違う」


 母様が元気になってほしくて、マナを制御した。

 天魔の加護によって、制御が完璧になったことで母様は元気になった。

 結果、私は家族が一人増えた。

 私が、クルセディスタの仕事を引き継ぐ必要がなくなったのだ。

 そういう繋がりを、前世から続けてきたことで今の私がある。


「私は、そういう善意に助けられて、強くなったの」


 シャロンは、私に悪意を向けなかった。

 であればそれが善意だったかと言えば、シャロンにしてみれば怪しいところだろうが。

 私にとっては確かに善意だったのだ。

 その光明に手を伸ばし、憧れたから私は強くなろうと決意した。

 故に、その善意を私は捨てられない。


「そして、もう一つ」

”もう一つ?”


 私は、呼吸を一つ整える。

 そして、



「貴方は、父様や母様。私の大切な人を傷つけた。だから貴方が嫌い。それが貴方の提案を断る理由よ」



”ほざけ!”


 その瞬間、私の周囲でマナが爆発した。

 閃光が瞬き、爆煙が私を覆う。

 そして、その中から――


「魔神は、器がなければ復活できない。でも貴方には、死んだ後もマナが回復する特性がある。それを利用すれば――死んだままでも世界に干渉できる」

”ほォ”


 私は、無傷で現れる。


「少なくとも、ダスタウラスにマナを与えたのは貴方でしょう。そして今回、私が油断した瞬間に私を殺すつもりだった」

”その訳わからねぇネーミングはともかく、そのとおりだよ。だがてめぇは、まったく隙を見せなかったな”


 否、その衣装はネグリジェから魔術師のものに変わっている。

 戦闘時は、これが一番馴染むのだ。


「肉体さえ残っていれば、その生命はどうでもいいのね。とにかく、最初から狙いが透けているのに油断なんてするわけがないでしょう」

”ハハハ! その姿勢、嫌いじゃないぜ。前に言ったよなぁ、力を隠してることに気付けない無能は嫌いだと”


 やがて、ザガンのマナが一つの形に変化する。

 その姿は、かつて私が滅ぼしたザガンの姿。

 実体は伴わない当たり、影というのが正確か。


”そしてお前は気づいていた。あの時感じたとおりだ。お前は確かに無能じゃねぇ”

「お褒めに預かり、光栄ね」

”――だが。それでも今の俺を滅ぼすことはお前にはできない”


 その言葉の意味を、推し量ることは簡単だ。

 ザガンがこちらに迫ってくる。

 私は油断なくそれを見据えたまま構え――接触する直前で光線を放った。

 それが――


”今の俺には、実体がない。故に物理的な干渉は――一切不可能だ”


 ――すり抜ける。

 同時に、ザガン自身も私をすり抜けて後方へ回った。

 即座に振り返り、追撃は許さない。

 今のすり抜け、私に対する攻撃の意思はなかった。

 しかし後方に回った際に、私が驚愕で隙を見せたら攻撃するという意志は感じられたのだ。


”ケッ、この状況でも油断は一切なしかよ”

「お前の行動は読みやすいの。意図がバレバレで、読むまでもない。これから自分がする行動を大声で叫びながら突っ込んでくるようなものよ?」

”あっそ”


 その直後。


”じゃあ死ね”


 再び、爆発。

 今度は一切の予兆がなかった。

 殺意も、敵意も、マナを動かす予備動作もなく。

 一瞬にして爆発したのだ。

 これでは、意図を読んでいる暇など一切ないだろう。


「なるほど、見え見えの予兆と予備動作なしの不意打ちを織り交ぜてくるのね」


 故に、私は無傷で爆発を吹き飛ばす。

 この程度の不意打ち、私に意味があると思っているのだろうか。


”だが、どちらにせよお前の絶対的不利は変わらない。お前は俺を殺せない。俺はお前の器さえ乗っ取れればそれで終い。この差はでかいぜ”

「さて……」


 前口上はこの程度でいいだろう。

 本気の魔神と、ようやく戦う機会を得たのだ。


「どうかしらね……!」


 心が踊っていないといえば、嘘になる。


 ――


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