41 手招き
魔神ザガンは、確かに私が一度討伐した。
だが、魔神は猿の魔物がやろうとしたように、復活することができる。
必要なのは、ある程度のマナと器。
マナに関しては、そもそも魔神を討伐したとしてもその場に残存するらしい。
それを利用して、魔神グシオンのマナを洗礼の加護に混ぜることで人類は騎士団の加護を開発している。
ザガンは討伐された後も、マナとして討伐された場所に残留していた。
そのマナは時間とともにどんどん増大――回復、とも言えるか――していき。
最終的には、ダスタウラスを余波で生み出すほどに増えてしまっている。
そうなると人々がザガンの存在に気づいてしまう。
故に出現したダスタウラスにマナを吸収させ、私に討伐させた。
私なら、討伐したことを周囲に話さないだろうと考えて。
そういえば、ザガン以外の魔神はどうなのだろう。
他の魔神も討伐された後にマナが増大していたら、そもそもその事を隠す理由はないと思うが。
ともあれ。
そうして復活のために虎視眈々を状況を伺っていたサガン。
復活の鍵は、聖女の器。
つまり私だ。
おそらく、この器に乗り移ることで魔神は復活できる。
故にザガンは考えた。
私の方から、ザガンに声をかけてくるのを待つ、と。
私はザガンの復活を知っていて黙っている。
そしてザガンは私の性格を見抜いている。
だからこそ、この提案が有効だろうと考えたわけだ。
”俺と組まねぇか? そうすれば、お前の願いはすべてまるっと解決するぜ?”
その言葉に、私は。
「ふぅん、組むって? 具体的にはどうするの?」
”お前という器に、俺を同居させてくれよ。そうしたら、俺は魔神の情報という餌をお前にくれてやるよ”
「あら、同族殺しが許されるわけ?」
”魔神は同族であるが、同時に競争相手でもある。どいつが人類を滅ぼしたときに最も勢力圏が多いかを競う相手なんだよ”
まぁ、そんな気はしていたが。
やはり魔神同士は協力関係にないようだ。
”お前は自由になるべきかどうか、悩んでいる。そうだろう? 天才であり、最強を目指すお前が周囲を置き去りにしていいのか、とな”
「……」
”だが、俺と組めばその問題は解決するぜ”
「そう? 全然そうは思えないけど」
というよりも、ザガンの狙いが見えてこない。
私を乗っ取るつもりなのは間違いないだろうけど。
それ以上に、私の理解者みたいな態度を取る理由は何だ?
”もっと本質的に考えろよ。強さを求めるのに、周囲の人間は本当に必要か? 今の立場を守る理由がどこにある”
「立場は大事よ、それがあるからこそ自由は周囲に認められる。ようは立場と自由、二つのバランスを保つことで、人は人として社会で生きられるのだから」
それはシャロンですらそうしていたことだ。
彼女は自由奔放ではあったが、周囲を拒絶したりはしなかった。
興味を示していなかったということでもあるが。
少なくとも、害そうとしていない時点で社会で生きていくという意志はある。
”そんなもの、魔神の世界に行けば、そんな立場必要ねえだろうがよ”
「……なるほど」
”今の立場を捨てて、魔神の制圧した土地へ行けばいい。そこには社会と呼べるものはない。魔神と、かつて人類と呼ばれていた家畜しかそこにはいねぇんだよ”
なるほど、理解できた。
確かに今は動乱の時代だ。
立場を捨て、一介の戦士となり世界を放浪するのであれば。
私はアリア・クルセディスタである必要性はない。
”強くなりたいんだろう? だったら社会なんてものは捨てちまえ。バランス? アホ言うんじゃねぇ、それは足かせってもんだろうがよ”
「足かせ、ね」
”それ以外の何だって言うんだ? 自由とは縛られないことだ。だってのに、何故バランスなんて取ろうとする。取ろうとした時点で、お前は自由を捨ててるんだよ”
まくしたてるように、私の頭に染み込ませるように。
ザガンは言葉を連ねていく。
言っていることは、理解できる。
”お前に必要なのは、人との繋がりじゃねぇ。俺という手段だ。魔神の世界で生きていくための知識と手札だ。さぁ、俺の手を取れ”
「……」
”そうすれば、俺はお前に本当の自由をくれてやる。お前が自由と呼ぶ、お前の家族という足かせじゃねぇ。本物の自由だ”
――答えを、出さなくてはならない。
母様は私にどこへも行ってほしくないと言った。
父様は好きに生きろ言った。
ミイはただ、問いかけてきた。
私はどうしたいのか、と。
”解っているはずだろうがよ、最初からお前は答えを。どうするべきか、なんざ。他人の言葉を聞くより前から決まっていたはずだろうがよ”
私は、シャロンに対する私の感情がわからない。
シャロンに憧れたことは事実。
それが今の私を作っていることは、間違いないのだ。
それでも。
”さぁ、答えを聞かせろ! お前の答えを!”
私は――
――
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