31 宴もたけなわと申しますし ④
炸裂させたのは、おそらく鉄か何かだろう。
その破片を爆発の勢いで周囲に叩きつける一撃だ。
当然、光の壁を浮かべてそれを防ぐが――直後、足元でマナが吹き上がるのを感じる。
「っと」
慌てて地面でおきた爆発を回避。
爆風に軽く吹き飛ばされながら、眼の前に迫る猿の魔物へビームで飛ばそうとして――
”効かぬ!”
「通常の能力も上がっているのね」
それを、正面から受け止められる。
弾かれすらされず、速度も衰えず私に鉤爪をふるった。
壁で、それを受けるも――その壁が、だんだんと溶けていく。
「毒撒きに使っていたマナを回収して、能力の純粋強化と爆発による攻撃で手数を増やしたってところかしら」
”それだけじゃないぞ。すでに理解しているようだが、私の毒はマナを侵すようになった。マナで構築された者を溶かすのだ”
厄介なのは、身体能力と破片を炸裂させる鉄だな。
魔物は得意げに語るが、毒はそこまで脅威ではない。
光の壁を溶かすにも数秒はかかっているし、私に直接攻撃が届いても回復できる程度のシロモノだ。
”さぁ、反撃の手立てはあるかな!”
まさしく防戦一方、こっちからは打つ手がなく向こうは多彩な手数で攻めてくる。
爆発を避け、破片を壁で防ぐ。
光の剣は私が直接刺さない場合は威力が出力を上げたビームと変わらない。
今の猿魔物への有効打にはならないだろう。
コレ以上の威力となると、足を止めて集中が必要になる。
そこを突破できない猿ではない。
「面倒ね……」
”面倒で済む領域はとっくに過ぎてるんだよ! 今は、窮地というやつだ!”
単純に、余力を残して戦うという戦い方に慣れていないのだ。
前世においては、死力を尽くしての戦闘が基本だった。
そうしなければ勝てない相手としか戦ってこなかったし、何より私には才能も余力もなかったのだから。
だが、今は違う。
相手をあしらう力がる、相手に見せたくない手札が山ほどある。
故に、最も苦手とする戦術で戦っているのだから。
しかしだからこそ、決定力が全く足りていないと感じざるをを得ない。
ともあれ、今はいいだろう。
そろそろ、戦闘以外に意識を向けるときだ。
「……貴方の狙いは、主人である魔神の復活」
”どうした、こちらの狙いを推理して動揺を誘っているのか!?”
――違う。
相手の反応から、私の言葉の成否を判断している。
今の反応からして、この狙いは――是。
「そもそも魔神は莫大なマナを有している。そういう存在は、死んでも魂が霧散せずに残る。そして霧散せず残ったマナに器を与えれば、魔神は再び蘇る」
”おいおい、世迷言はなしにしてくれよ。いくらなんでも突飛な推理だぞ!”
これも――是。
反応がわかりやすい、私が言い当てる度に攻撃の勢いが増している。
それ以上、言われたくないのだ。
もしくは、さっさと殺したい。
「ただ器は、普通の方法では与えられない。器を与える方法は幾つか存在するけど――最も単純な方法は聖女の器を使用すること」
考えてみれば、おかしな話だったのだ。
どうしてザガンは、”聖女”ではなく”聖女の器”と言ったのだ?
まるで私に、人ではなく器としての使い道があるかのようだ。
「そもそも騎士団の加護は、魔神の魂を利用して生み出しているのね」
”おい、それ以上はやめておけ”
さて、話が核心へと至る。
猿の魔物も、こちらがすべてを見通したうえで話していることに気付いたのだろう。
警告を飛ばしてくる。
だがそこには、どこか焦りも感じられた。
「だから、魔神はある細工をすることができた。騎士団の加護を生成する際に、体内へ魔神のマナを注入することを利用して、聖女の器が洗礼を受けた際に――」
”やめろ……!”
「聖女の器に、復活のための細工を仕込むことが」
”やめろと……言っているだろうが!”
その瞬間、猿の魔物は体内に自身が取り込んだ魔神のマナを活性化させる。
”これを起動すれば、貴様に魔神グシオン様の魂が収まる! 殺してから収めなければどうなるかわからない故、殺してから起動する予定だったが……!”
「もうすでに知れているなら、意味はないと?」
”そういう、ことだ――!”
そして魔物の体から光が放たれ、その光が私の体に――
――影響を与えることはなかった。
”――クソが!”
直後、猿の魔物が一直線に突っ込んでくる。
先程までよりも早い、手には鉤爪が存在せず爆発も起こらない。
つまり、それらのマナもすべて身体強化に突っ込んだということ。
一回限りの奇策、これで私を倒せなければ万策が尽きるという状況。
「でも、残念。私はそもそも、洗礼の際に魔神のマナを拒絶している」
”天魔の加護などという、わけの分からぬ加護を持ち出した時点で、嫌な予感はしていたのだ――!”
迫る腕を、私はひらりと躱す。
最高速だが、私にとっては全く持って遅い。
そしてこの奇襲は、完全に悪手だ。
まだ、爆発で撹乱しながら迫ったほうが良かった。
これでは、腕と足しか武器がない。
飛んでくる攻撃が、読みやすすぎる。
故に――
「――おしまいね」
私は、躱した勢いのまま手に光の剣を生み出し。
それを、身体強化に任せた刺突で――魔物の急所に突き刺した。
「ここまでにいたしましょう。宴もたけなわと申しますし――」
”が、あ――”
終わってみれば、あっけないもの。
”グシオン――さま――”
やがて、猿魔物の目から生気が失われ――後には、魔物の死体だけが聖堂に残された。
――
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