30 宴もたけなわと申しますし ③

 市街地での戦闘というのは、それ相応に気を使うものだ。

 今回は神聖な建物の中だからなおさら。

 ただ、全くの無傷というわけにもいかない。

 ここで激しい戦闘があって、その結果魔神の死体が転がった……という状況が最高だ。


”キキキキキ――――――ッ!”

「本気になった途端、品性のない笑い方をするのね」


 服を傷つけぬよう、魔術師の外装を構築し身にまとう。

 目撃された時にこの方が都合がいいというのもある。

 まぁ、周辺の人間は猿の魔物が昏倒させているから目撃者はいないのだけど。

 背丈は伸ばさない、もう伸ばさなくてもちょうどいい感じの背丈になっているからな。


”言っていろ!”

「あら、大胆」


 高速で迫ってくる魔物の鉤爪を躱す。

 鉤爪が紫の光を帯びて伸びており、マナで構築したことがわかる。

 おそらくは、触れると異常が発生するタイプか。


「じゃあ、お返し」

”見た目通りに魔術を手繰るつもりか!”


 ビームの魔術で牽制を入れつつ、周囲には光の剣を浮かべた。

 数多の光線をかいくぐって迫ってきた猿の魔物を光の剣が自動的に受け止めた。

 その間に私は距離を取り、これまた自動的に動く剣を操作して猿魔物を串刺しにしようとした。


”甘いわぁ!”

「おっと」


 剣は、鉤爪一振りで弾き飛ばされてしまった。

 なのでそれ以上の数の光の剣を生み出して攻撃する。

 もちろんそれらも瞬く間にかき消されるが、その間に距離は取れる。


「ほらほら、全然近づけていないじゃない」

”ふん、小癪だな”


 かくして、激しい攻防が繰り広げられる。

 追いすがる猿魔物を私が物量で押しのける形だ。

 しかし、相変わらず火力が足りていない。

 これでも一年前と比べてマナの量も増大しているのだが。

 やはり魔術による戦闘は苦手だ、そして苦手だからこそ取り組む価値がある。


”キキキキキ! どうした、優位を保っている風で、全くこちらを傷つけられていないぞ!”

「お互い様でしょう」

”どうかなぁ!”


 勢いよく、猿魔物が突っ込んでくる。

 こちらの光剣だけを的確に破壊し、ビームの方は無視して吶喊してくるのだ。

 ビームがほとんどダメージにならないことがバレた。


”追いついたぞ!”

「いいえ、懐に誘い込んだ、が正確ね」


 だからこそ、私は猿魔物の前にビームを置く。

 これをどうでもいいと突っ込むなら良し、警戒するなら避ければいいだろう。

 そうすれば、隙になる。

 猿魔物の選択は――


”キキイイイイイイイイッ!”


 そのビームを、片手の鉤爪で受け止める。

 器用に鉤爪の部分だけで、だ。

 肉体で受けていたらダメージは必至、そういう威力で撃っている。

 ビームをどうでもいいと思わせたタイミングでの威力強化だったが、この程度じゃ策にもならないな。

 そのまま、完全に弾かれてしまった。


”――獲ったぞ”

「……!」


 耳元で、囁くように猿魔物は私に蹴りを叩き込んでくる。

 鉤爪はもう片方空いていた、そちらに意識が向いていたため蹴りへの対応が間に合わない。

 ――わけでもないのだが、都合がいいのでそのまま受けて吹っ飛んでおいた。


”所詮は小娘、戦闘経験が浅いなぁ!”

「……まぁ、だからこそ経験がほしいの。よくわかったでしょう?」


 実際には体内でマナを集中させてダメージはないが、ゴロゴロと転がってから起き上がった。

 一応、顔をしかめておく。

 流石にわざとらしくて見破られるか?


「貴方、甚振るためにあえて蹴ったのね?」

”当然だろう、身の程を知らない人間へ教育してやるのは私の義務だからなぁ!”

「悪趣味」


 返しながら、今度は先ほど不意打ちに使った威力のビームを猿魔物に向けて乱射する。

 流石に威力を無視できないのか、それを避けながら猿魔物がこちらへ近づいてこようとする。


「それで、教育がなんて?」

”調子に乗りやすいのは、いただけないなぁ! 私の一撃が貴様を抉れば、そこでお陀仏だっていうのにな!”


 人のことなんて全く言えないくせに。

 猿魔物はそんな事を言ってこっちに近づこうとしてくる。

 でもこの距離なら、一か八かの突撃もできない。


「一撃でも抉れば……その毒々しい紫の色合い通り、毒でもあるのかな? その鉤爪には」

”さてなぁ!”


 状況は膠着している。

 近づけさせていない以上、有利なのは私だ。

 しかし、なんというか猿魔物に攻めっけが感じられない。

 後、少しずつ焦燥感を募らせているようにも見えた。

 ふむ、そろそろ頃合いか。


「――ねぇ」

”あん?”

「いつまでこんな茶番を続けるつもり?」


 そう言って、私は祭壇の中央に着地。

 そして月明かりを浴びながら、手を前にかざして――



「さっきから毒を垂れ流しているけれど、私には意味がないの。まさか気づいてなかったかしら」



 毒、正確にはそれを形成しているマナを――握りつぶした。


”なっ――”

「これで、少し空気が良くなった。大変だったのよ? 外で転がってる警備の兵士まで毒から守るの」

”き、さま――!”


 猿の狙いは、私の自滅。

 毒を散布して、弱るのを待っていたのだ。

 しかしそれは無茶な話、格下のマナで毒を受けるほど私は弱くない。


「このマナを、貴方の全力に費やすべきね」

”ハッ――後悔するなよ!”


 この魔物が、私を甚振ろうとしたのは本人の趣味だ。

 加えて、最初から全力を出したくないというプライドもあるのだろう。

 私みたいに、手の内をさらしたくないという考えもあるか。

 なんて、考えを巡らせていたら――


”吹き飛べ”


 私の眼の前に、黒いたまのようなものが出現する。

 そして、直後。

 それらが勢いよく周囲へ炸裂した!



 ――


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