28 宴もたけなわと申しますし ①
”俺がここにいたという事実だけを抱え、その裏に潜む陰謀に怯えるがいい! 聖女の器!”
そう言って、魔物が消滅しようとする直前。
私は体内のマナを動かして、加護を起動した。
「――天魔」
”……へ?”
直後、消えかけていた魔物が元の姿に復元していく。
やっていることは単純だ。
私のマナを魔物に流し込み、消滅していく魔物の体を再構築しているのである。
”な、何をしている……!? 何が起きている!?”
「やられている側も、訳が分からないでしょう。初めて傍目からこれを見た時、私も何が起きているかわからなかった」
かつて、彼女が私の眼の前で天魔を使ってみせた時。
毎回思ってもみないようなことが起きていた。
理解に苦しみ、想像もしていなかったことを巻き起こすのだ。
「私が授かった加護は、天魔の加護。今から千年前に一度ある少女に与えられ、けれどもその効果が知られることなく消えていった幻の加護」
”な、何を……”
「その効果は、不可思議。現実ではありえないような現象を引き起こし、思っても見なかったようなことを巻き起こす波乱の力」
無論、決してそれは万能ではない。
天魔の能力を言い表すなら、起動させる際に”なんとなくこれは行ける気がする”と思ったことを形にする力、だ。
かつて、そう言っていた彼女ですら全容を把握していなかった力。
無論、端から見ていただけの私には、全く理解の仕様もない代物だ。
それでも、今まさに。
できるとおもったから、やった。
「故に、貴方は再生するの。私が良いというまで、もしくは、私のマナが貴方を構成できなくなるまで」
”ふ……ふざけるな! ありえない、そんなこと!”
「でも、現実に起きている。これが天魔の加護よ。貴方の知りたかった、聖女の力」
言いながら、手に力を込める。
ここからはただ話を聞くために、言葉を交わすのではない。
相手から情報を搾り取るために言葉を”使う”のだ。
「さて、それじゃあ貴方の知っているすべてを聞かせてもらいましょう。貴方、こういうことをされる前に自分は自壊して消えると思っているのよね?」
”な、なにを……”
「だから、痛みに対する耐性がない。覚悟もない。それなら――」
できうる限り、凶暴に。
嗜虐的な笑みを浮かべて、掴んだ目玉に笑いかける。
「多分、すぐに終わると思うの。この、拷問」
そして、目玉は、
”い、いやだああああああああああああ!!”
泣き叫びながら、私に知りうるすべてを話してくれた。
◯
「――というわけで、貴方の狙いは全部筒抜け。決死の覚悟でここまで来たのでしょうけれど、残念でした」
”…………”
「ああ、貴方が喋れることはわかっているから、口を閉ざさなくてもいいの」
”……チッ、使えぬ道具だ”
私の言葉に、猿の魔物は観念した様子でこぼす。
私の身長の倍以上の体躯を持つ、狡猾そうな相貌の魔物だ。
おそらく、素のダスタウラスよりは間違いなく強い。
ただでさえマナの総量が測った限りではダスタウラスより多い。
加えて知恵があるという時点で、段違いだ。
”だが、それならなおさら疑問だな、アリア・クルセディスタ。その名前は知っているぞ、此度の洗礼で最も注目されている貴族令嬢のはずだ”
「こんなところに、出てこれるはずがない、と?」
”それはお前が何よりわかっているはずだ。なぜここにいる?”
「……時間稼ぎね、でもいいでしょう」
眼の前の魔物は、明らかに何かを狙っている。
はっきり言って、この会話は無用の長物。
私はこれを受ける利点はほとんどない。
だが、この魔物とは話をしておくべきだ。
「私としても、魔神と人間の情勢について直接知れるまたとない機会なの。貴方と話ができて嬉しいんだから」
”周囲に味方がいないというのは、悲しいことだなぁ”
どうやら、向こうもなんとなく理由は察してくれたようだ。
私には、私の目的を共有できる味方が少ない。
私の目的は、「世間を気にせず強くなりたい」。
だが、それをするには立場も、才能もあまりにも不相応。
いずれ私は、世間から救世を求められるだろう。
だがそれは今ではない、今は何も知らない箱入りの令嬢でいたいのだ。
そういう点で、魔物というのは都合の良い情報源だ。
なんの遠慮もなく、話を聞けるのだから。
「でも、全くもって味方がいないというわけではないの」
”ほう?”
「――”私”は今、晩餐会にいることになっている」
”――――影武者か”
さすが、知恵の回りそうな魔物。
彼の言う通りだ。
現在晩餐会には、ミイが私に成り代わって出席していた。
――
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