24 ルプラス伯爵 ①
思い至ってしまえば、情報はすでに私にとっては既知だった。
騎士団の加護を開発した魔術師。
「ルプラス伯爵、あの英雄ディオスを支援して魔神討伐の立役者となった貴族にして魔術師」
「流石にルプラス伯爵のお名前なら私も知っていますよ」
「というより、知らない者はいないと言った方が正しいかしら。少なくともこの場にいる者は全員知っているでしょう」
何せ、騎士団の加護を安定して付与できるように加護の洗礼を改良した人物だ。
今、まさにその恩恵を受けている人間が知らないなんてことはありえない。
「仮にそのルプラス伯爵が、魔神のマナを利用して騎士団の加護を付与する方法を開発したとしたらどう?」
「いやいやそんなまさか……」
「とんでもない話ではあるけど、別にありえない話ではないじゃない? 少なくとも、確認してみる価値はある」
確認するだけなら、そこまで手間のかかるものではない。
それに、私はある話を聞いたことがあった。
「現在、ルプラス伯爵は騎士学校の教員でもある。だけど毎年加護の洗礼を行う時期になると聖都へやってきてはその様子を観察しているそうよ。今もこの洗礼を見守っているかも」
「騎士団の加護の開発者が、この時期へわざわざ聖都に……そう言われると何か意図がありそうな気がしてきますけど」
「だから、私達がするべきことは簡単」
洗礼の様子を再び眺める。
洗礼を受ける貴族の子供は残り半数程度。
先にミイの洗礼を済ませるとして、待ち時間はそこまでかからないだろう。
「会ってみましょう、ルプラス伯爵に」
私の言葉に、
「や、やっぱりですかぁ……?」
ミイのどこか呆れが混じった反応が帰ってきた。
◯
ルプラス伯爵の邸宅がどこにあるかは、私の名前を出して神父に質問すればすぐ分かる。
これが前世の今時分だったらこうはうまくいかないだろう。
生まれの良さに感謝だな。
「それにしても、まさかこんな便利な加護を授かるなんて思いませんでした」
「基本的に加護は本人の適正にあったものが与えられるそうよ。私の場合みたいによくわからないものもあるけどね」
洗礼を終えたミイと、ミイの加護について話をしつつ先を急ぐ。
ミイの加護は非常に便利なもので、ミイにとっても私にとってもありがたいものだった。
「それで、ルプラス伯爵は会ってくれるでしょうか……」
「難しいわね。もともと常人とはかけ離れた感性をしているそうだし、何より私達は貴族とはいえただの小娘でしかないのだから」
「だめじゃないですかぁ!」
別に勝算がないわけではない。
もし仮に私の想像通りのことが起きているのだとしたら、話に聞くルプラス伯爵は私の話に興味を持つだろう。
それに、だ。
「そもそも、貴族がアポイントメントを取らずに人と会うことは早々ないのよ」
「じゃ、じゃあなおのこと、今日は会ってくれないですよね?」
「ええ、でも私たちはこれから数日、聖都に滞在する。洗礼を行った貴族同士の晩餐会があるもの」
もしくは社交会か。
目的は単純で、貴族同士の顔合わせ。特に洗礼の性質上同い年の貴族の子供が多数聖都に集まっている。
中には騎士学校へ通うもの者もいるから、予めコネを作っておくための場所だ。
正直私はそこまで晩餐会に興味はないのだが、完全に無視する方が目立ってしまうため、顔だけは出すつもりである。
面倒な話だが、こればかりは仕方がない。
「つまり今回はあくまでアポイントメントを取るのが目的。必ずしも一発で彼と顔を合わせるつもりはない」
「流石、お嬢様は深謀でいらっしゃいます」
というわけで、私達は彼の屋敷へとやってきたのだが……
「……いらっしゃらないのですか?」
私の言葉に、屋敷を維持している使用人が頷く。
この使用人に顔合わせをするところまではスムーズに行った。
あとは私の名前と用件を告げて、可能なら会えないか。
会えないなら手紙でのやり取りは可能かと伝えてもらう予定だったのだが。
「ご当主様は現在、どうしても手が空かないとのことでして。おっしゃる通り、本来ならこの時期になれば必ず聖都へ戻られていたのですが」
「ごく稀に、そうでない時もある?」
私の言葉に、使用人は頷いた。
困ったな。
会ってもらえないとは思っていた。
私の話に興味を持つかは怪しい、とも。
それでも、ルプラス伯爵が聖都にいないとは思わなかった。
「どうしますか? お嬢様」
「どうするも何も、この使用人に用件を告げて去るしかないでしょう」
少し想定外ではあったものの、やることは変わらない。
聖都にいる間に疑問が氷解する望みは消えたものの、やらない理由はないのだ。
とはいえ、そうなると話がルプラス伯爵に伝わるかは難しいところだな。
何で彼は、なんというか……相当破天荒な性格だそうだから。
……ミイは、私の考えを読んで「私も同類だろう」みたいな顔をするのをやめなさい。
「とにかく、お話を聞いていただきありがとうございました。このこと、ルプラス伯爵へお伝えくださいませ」
「かしこまりました」
使用人へそう挨拶をしてから、その場を離れる。
ちょうど、そんな時だった。
「…………この気配は、魔物?」
とんでもない存在が、ルプラス邸を監視していることに気づいたのは。
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