3 一番大事な事を伝え忘れているな?
――恐ろしいな、この肉体は。
先ほどもいったが、魔神のマナ総量は私の前世とそう変わらない。
だが、今の生は違う。
当時と比べても、遜色ないどころか軽く上回るマナ総量。
マナ自体は精神に紐づくものだから、覚醒したばかりの私は生前の――それも千年で摩耗したマナしか有していないはずだ。
だから、成長した。
人ならざる魔神を討てるほどのマナ総量にまで。
この短期間で。
ああ全く。
才能というのは、恐ろしいな。
”――――く、くくく! ははははははは!”
「……なんだ?」
”そうか、そうかやっと理解したぞ! 俺が探していたのはお前の母親ではなく、お前だったのだ! ああ、本当に。こんな醜態をさらしてようやく気付くとはなぁ!”
頭が吹き飛んだはずなのに、聞こえてくる魔神の声。
おそらくは魂の方に意識や声が紐づけられているのだろう。
そういう魔物も、私の時代にいないことはなかった。
とはいえ、奴の死は確定的である。
明らかに体がくずれさってるからな。
「なにが、いいたい?」
”今は理解する必要などない、いずれ解る! さぁ、戦争を始めよう人類! ようやくお前たちは俺達魔神と対等に渡り合う権利を――聖女の器を手に入れたのだ!”
「せいじょの、うつわ」
”そうだ。故に宣言しよう。この戦争は、世界を揺るがすものとなる。ああ、それに関われないことは、あまりに残念で仕方がない――!”
かくして、魔神ザガンは最後には、高らかに宣戦布告をして消えた。
潔いというか、なんというか。
しかし、私はそれどころではなかった。
聖女……聖女?
それは、つまり――
「――――リリア! 平気か!? アリアも無事か!」
ふと、声がする。
おそらくは私の今の生における父だろう。
そして、彼は言った。
アリア、と。
これが私の名前で間違いないのだとしたら。
私は、前世が男でありながら、女の器に入れられている――――?
おそらく、きっと、多分、
間違いなく、そうだ。
あの抜けている女神殿のことだから。
肝心の性別に関する情報も抜けていておかしくはない。
私は思わず天を仰ぎながら。
これからの人生を、女として生きていけるか本気で自分自身に問いかけるのだった。
◯
――”旧き名門”クルセディスタ家に魔神が強襲。
その情報は、瞬く間に人々の間に知れ渡った。
長く続く魔神との戦闘、抜けられない袋小路。
そんな状況で魔神が貴族の家を襲撃したなんて知られたら。
また、民衆のモチベーションが下がってしまう。
と、多くのものは考えていたが、そうはならなかった。
魔神討伐。
その報は、大陸各地に轟いた。
何せ、初めてのことだったからだ。
死者を出さずに魔神を討伐するなど。
無論、運が絡んだ場面もあった。
魔神ザガンがクルセディスタ夫人とその子供を父親の前でいたぶろうと考えなければ。
死者は間違いなくでていたはずだ。
それでも、勝った。
魔神の頭部を吹き飛ばし、紛れもなく完勝だった。
惜しむらくは、その時の光景を物心がつちているか否かという年齢の少女――アリアしかいなかったことだが。
とにかく、そのアリアいわく。
女の魔術師だった。
とのこと。
それ以上はわからないそうだが。
とにかく、クルセディスタ家は当面の危機を乗り越えた。
そこから先にあるものが、果たして何であるか知る由もなく。
ともあれ、少女の名はアリア・クルセディスタ。
クルセディスタ家の長女にして、一人娘。
その肉体に宿る魂は、元は今から千年前の時代を生きた武闘家にして魔術師だ。
前世では、無能と蔑まれるほどの立場から最強に至った戦士。
そんな彼が、”聖女”と呼ばれる才能の塊に宿り。
果たして、どこに至るのか。
これは、そんなアリアの物語である――
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