第四話 サチ
サチは特別なんです。
そう言葉にしたら止まらなくなって、千恵は坂を転がるようにどんどんと話し始める。
サチと私の出会いは中学生の時でした。
年の割に幼かった私はあの頃よくどんぐりを集めていました。
サチは友達もいない、ずっとどんぐりを集めている私を面白がって声をかけてきてくれました。
それ以来、親友なんです。
変な話やわ、と光子は思ったが、とにかく話し続ける千恵に相槌も打てない。
サチは明るくて、優しいんです。でも私といるときはなんていうのか、性格が悪いんです。でもそこが好きです。
勝手で、わがままで、私をブンブン振り回して。
で、こっちも負けないくらいブンブン振り回し返すんです。
食べられないくせに激辛ラーメンにチャレンジしたり、顔より大きいパフェをたべたり、そういうこと、させてくれるんです。
平日の夜中に家に来て、こたつで寝ていったこともありました。
夕方の空港にただ飛行機を見に行って、夏の川でスイカを冷やしました。
それって、親友でしょ?
千恵は向き直ると真っすぐ光子を見る。
光子はうなずいた。
親友ね。家族ね。
そうなんです。家族なんです。
でも私、
ここで千恵は涙を堪えるために息を深く吸う。
でも私、就職して、転職して、人生がうまく回り始めた時に、初めてサチ以外の友達ができたんです。
有頂天でした。
バーベキューとか、映画とか、ショッピングとか。楽しくて。
楽しくて、そうね、わかるわ。と光子はつぶやく。若い頃はわかりやすく素敵なことばかりを素敵に感じてしまうのだ。
キラキラしてました。多分、あの頃の私。
それで、サチに言ったんです。
サチも、普通の女の子みたいな遊び方を覚えたほうがいいよ、そのほうが楽しいよ。
カラオケで知らない歌を勘で歌ったり、公園でゲートボールに混ぜてもらうのは、変だよって。
確かにそれは変やね。と光子は思わず口にする。
そういうの、なんて言うのか、私、ウザいですよね、上から目線でほんと性格悪い。で、気付いたらサチを恥ずかしく感じてしまってて、距離ができて。
でも、今日、どうしても会いたかった。あの子結婚して明日から海外なんです。
日本には家族がいないから、もう戻らないんです。
今日会って仲直りしないと、謝らないと、ありがとうって言わないと、
千恵はそれ以上続けられなかった。
ハンカチで鼻を拭く。
光子は千恵の背中をポンポンと叩いて慰めながら、視線を駅のあちこちに走らせる。
何としてでも、会わせてやらないと。
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