第二話 親友
とっさに私は名乗ってしまった。
悪い人たちには見えないが、見知らぬおばちゃんに心を開いてもいいのだろうか。
晶子と、光子と、秀美とか言った。
口の中で晶子さん、光子さん、秀美さんと繰り返して、一人一人を見る。これは大学生の時に病院の受付でアルバイトをした経験から得た人の顔と名前を早く覚える私なりのコツ。
晶子さんはちゃんとしてる、信頼できそう。
秀美さんは、可愛らしい人、かな。
光子さんは、漫画の主人公のお母さんみたい。
それぞれの特徴を頭の中のノートに書いてみる。
うん、覚えた。
サチの特徴を秀美さんに伝える。
背は155センチくらい、髪は多分一つにくくっています。あの子雨の日は髪がうねるから必ずくくるんです。
あと、顔は、目が少しトロンとしてて、こう…と言いながら指でタレ目を作る。
鼻がちょんっとつまんだみたいな可愛い感じで、口も小さくて、丸顔です。
あと、猫背!
頭の中でサチを思い浮かべる。言葉にすると、何とも可愛らしい、おっとりした女の子みたいに聞こえるだろうな。
案の定秀美さんはパッと明るい顔をして、「じゃあ私くらいの身長の丸顔の可愛い猫背の女の子ね!」と言う。
それって、サチっぽくないな。と感じるけど、容姿だけの話をすればそうなるんだからしょうがない。
私の親友にはそんな簡単に表現できない魅力が詰まっているのに、もどかしいが今はそんな事関係ないのだ。
「じゃあ私、東口に行ってくるわ。」と秀美さんが言う。
「私も念の為、このへんウロウロしてみるから、みっちゃんとちえちゃんはここにいて。みっちゃん、ちえちゃんがお友達に会えたら私達に連絡してね。」と晶子さん。
えーっ、光子さんと残るの?この人、遠慮なさそうだなー。
ちえちゃん、だって、やっぱ晶子さんもおばちゃんなんだ。
光子さん、うーん、なんかなー、うるさそう。
なんて思っていたけど、光子さんは既にキョロキョロしてサチ探しを始めているので話しかけてこない。
それはそれでさみしい。
こういうとこ、私って勝手なんだよ。だから…。
光子さんは自販機の裏や柱の後ろに人がいないかとちょこまか動く。申し訳なさとありがたさが入り交じる。
きっと、サチとはもう会えない。
「光子さん、私の話、聞いてもらえます?」
あきらめようと決めてしまうと、今日の待ち合わせの経緯を聞いてほしくなった私。
多分隠しているつもりでも興味を隠しきれていない光子さんは眉をピッと上げて口と鼻をぎゅっと近づけた、変な笑顔で答えた。
「いいの?聞く聞く、話して!」
そう言って自販機の方へ行くと走って戻ってきてベンチに座る。
そしてなぜか芝居がかった言い方で
「よし、聞きましょうか」と、コーヒーを渡してきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます