会えない二人

@entaronon

第一話 ガール・ミーツ・おばちゃん

 駅 西口 おばちゃん三人が傘をたたみながら話している。

光子「まー、ようさんふるわ、かなわんわー」

秀美「ほんまに、梅雨やなー」

晶子「今この界隈でみんなおんなじ会話してるんやろね。」

 三人は幼稚園からの仲良しだったが、進学、就職、結婚とライフステージが進むごとに少しずつ疎遠になっていた。

ところが40歳の時に秀美が大病をしたのをきっかけにまた頻繁に会うようになり、60歳を超えた今では週に一度は集まっている。

「このあと、ウチ、コーヒー!」と、宣言する光子はグループの中でも押しが強く、服も派手で、小柄な割に声が大きい。

「わたしも、プリン食べたいわ」と言いながらハンカチで鼻の下の汗をぬぐうのは秀美。子供の頃から気が弱く、体も弱かったが、今は長引く更年期に苦しんでいる。

何も言わずに友人二人をそっと人通りの邪魔にならない場所へ誘導しながら雨に濡れない喫茶店までのルートを考え始めた晶子は、見た目も振る舞いもスマートだ。


 今日は光子の友人の経営するホテルでランチビュッフェを楽しんで来た帰り、お腹がはち切れそうなほど食べたあとなのに喋り続けたせいかもうお腹はこなれてきた。

「みっちゃん、あれ、あの女の子、困ってない?」と、突然秀美がハンカチをバタバタさせる。

そこにはキョロキョロ落ち着かない様子で周囲を見渡す30歳くらいの女性がいて、服も髪もきちんとしているが、おばちゃんにしてみれば30なんてみな女の子なのだ。

「あんた、迷子か?」

光子が遠慮なしに声を掛ける。

知らない人に話しかけられ、女性はぎょっとして身を反らしたが、何やら人の良さそうなおばさんが小さい体を伸ばすようにして話しかけてきた事がわかると、体の傾きを戻した。

「迷子じゃないんです。友達を待ってて」と答えながらも目はあちこちを見ている。

「電話しないな」少し偉そうな言い方になってしまい、光子は、取り繕う。「スマホ、ないんやったら貸したげるで」

秀美は光子のこういうなんとも人のいいところが好きだ。

「私のも貸したげよ」

晶子は二人が何だか他人に迷惑をかけている気がしてヤキモキしてしまう。

「知らんおばちゃんが次々話しかけたら怖いやろ、やめとき」

三人がテンポよく話すせいか、周りの人がチラチラとこちらを見ながら通り過ぎる。

 「あのー、電話は意味ないんです。」

なんで?

と、三人が声を揃える。

「さっき電話したら、いま西口ーって聞こえた瞬間、ゴンって音がして切れました。多分、スマホ、壊れてます。」

「西口?」

「はい、私それ聞いて東口からこっちに来たんですけど。」

光子は腕を組んだ。いつも読むミステリー小説ならこれは事件の始まりである。

「あなたたちは、駅で会う約束をしたのに西口か東口かを決めなかった、つまりこの駅を使い慣れていない!そうですね?」芝居ががった口調。

そこに晶子の冷静な声「今の若い子はそもそもそこまで厳密な待ち合わせせんやろ。スマホあるんやし。」

何にしてもおばちゃんのおせっかい魂に火がついたようだ。

三人は目を合わせて頷いた。

秀美「私、東口に行くわ。私がその相手やったら西におるのに会えへんなら東やろって考えるし。」

晶子「そやな、その人どんな人?」

光子「人柄ちゃうでー、見た目、教えてな」

ポンポンとまたテンポよく話すおばちゃん三人。

光子「その前に、あんた、名前教えて」

一斉に三人の目が自分を捉えているとわかると女性は少し緊張した。

秀美「私は秀美、こっちは光子、こっちは晶子」

晶子「晶子です。」

光子「光子です。」


「私は、千恵です。友達は、サチっていいます。」

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