第22話 大事故
私は開いたドアから飛び降りようとしたが、車内から地面がそれなりに高さがあって飛び出すにはちょっと勇気がいる。
私が一瞬怯んだのを見て、同行を申し出てくれた男性が先に降りて私を下ろしてくれた。
地面に降り立ち乗っていた車両を見上げ、それから前方を見て衝撃を受けた。
「正面衝突……!?」
私が乗っていた列車の1両目と反対側から走ってきた貨物車が正面衝突し押し潰されて山のような形になり大破していた。
私は前方部へと走った。
近づくと事故の詳細が見えてきた。乗っていた方の車両の運転室はもはや原型をとどめず、2両目の一等客車が運転室と3両目に挟まれひしゃげている。
「客車に入れるか!?」
「連結部も潰れていて扉が開きません!」
線路脇に立った男性と3両目の中にいる男性が話している。外にいる男性は周囲を軍服を着た人ら数人に囲まれていた。
どうやら救助しようとしているらしい。けれど素人目に見ても車両を切断できるような専用の機材がなければ入れそうな場所は窓くらいしかない。
(軍服の人たちも私のいた車両から来た人たちも体が大きくて窓からは入れなさそう)
中に閉じ込められた人を助けられるのは多分この中で私だけだ。
私は救出を試みている一団の中心人物と思われる男性に意を決して話しかけた。
「私が車両の中に入って怪我人の治療をします」
「君が?」
私の方を見たその男性は20代前半くらいのとても整った顔立ちをしていて、そんな場合ではないのに視線を奪われてしまった。髪は白に近い金髪で、強い光をたたえた金色の瞳が印象的だった。
「私は治療魔法師です。私なら窓から入れるかと」
「危険です。民間人にそんなことはさせられない」
「一刻も早く治療が必要な患者がいるかもしれません。議論してる時間はないです。許可はいりません、勝手にやります」
私は一緒に来た男性たちにお願いして侵入できそうな窓を探した。
「君! 殿下の指示を無視して勝手にっ__」
「レイノルズ、いい。……分かった、我々は君に協力する。全員、治療師の先生が安全に入れそうな場所を探せ!」
「承知いたしました」
軍服の男性らが素早く動き出し、私はそれを見守りながら、他の車両にも重傷者がいるのではないかと考えていた。
「あの、デンカ……?」
「名乗らずに失礼を。アーサーとお呼びください」
「私はナオ・キクチです。それでアーサーさん、他の車両にも重傷者がいないか探したいのですが、人手を借りられますか?」
「分かりました。ショウ、フリン、ルイス! こっちに戻ってきてくれ」
アーサーさんに呼ばれた3人は侵入口を探すのを中断して戻ってきた。
「お三方は他の車両の怪我人をこちらに運んできてください。ただしすぐに治療が必要な重傷者だけにしてください」
軍服を着ているのだから軍人だろう。怪我の程度の見分けはできるはずだ。
「どうして選別する必要があるんです?」
「多分魔力が足りなくなります」
治療に慣れた今なら平時で魔力切れなど気にせず治療できた。だが今は違う。どれだけ怪我人がいるかも不明で、怪我は重いほど魔力が必要になる。
「了解しました」
「お嬢ちゃん、俺たちもこの3人についてくわ。運ぶ人手は多い方がいいだろ」
同じ車両の男性たちも入ってくれるようだ。
決まるや否や軍服の3人と男性ら7人は3両目に走っていった。
「殿下! こちらに来てください!」
2両目の裏側、進行方向に向かって右側から声が上がった。
私とアーサーさんはそこに向かうため3両目の中を通って裏に回った。
「殿下、ここからなら入れそうです」
そこは2両目の真ん中あたりの窓で、ここだけは潰れず原型を保っていた。
「窓を外して入ってもらおう。レイ、私が君を持ち上げるから窓を外してくれ」
車内からなら簡単に手が届く窓も外からでは少し高い位置になる。
「それはっ、僕が土台になりますので殿下がなさってください!」
「君の方が小柄だろう。この非常時に身分など気にしていてはいけない……よっと」
言い終わるよりも先にアーサーさんはレイと呼ばれた軍服の人を持ち上げた。
レイさんは半開きになっている窓枠に手をかけ力任せに外す。
(私とそう身長変わらないのにやっぱり鍛えてるのね)
レイさんが降ろされ次は私の番だった。
「持ち上げるよ。いいね?」
「はい。お願いします」
「せーの!」
アーサーさんはしゃがんで私のふくらはぎ辺りに両腕を回し立ち上がった。
私は窓枠に手をかけ、それから足をかけて転がるように中に入った。
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