恋心

一の八

恋心


雄介は、車に乗り込んでからソワソワしていた。


心のざわめきを落ち着かせるように目の前には、

辺り一面に美しく緑が広がっている。


今日、綾華に告白する雄介は心に決めていた。

だけど、その答えを知ってしまったら二人の関係は…

もしかしたら、このまま終わってしまうのではないかと雄介は自分の心の声に塞ぎこんだままだった。


 

「この後どうする?」

そんなことを聞く勇気が、出てこない。  


茶畑が海のように広がる一角にぽっつんと建てられたカフェ。

「抹茶が有名なお店で、店内もオシャレなの」

と綾華が教えてくれた店は、

たしかに、

綺麗な店内に落ち着いた雰囲気を出していた。


雄介は、カフェの駐車場で言葉を探していた。

どんな言葉をかければ、変な風に思われないで済むだろうか。

答えが見つからない。



ナビに表示されている時計に目をやる。

時刻は、16時30分

まだ、帰るには早い。


今日一日だけで、二人で色々な場所を巡った。

 

「ハシビロコウってほとんど動かないって聞いてたけど、あんなに動くなんて」

綾華の驚いた顔が目に浮かぶ。



お昼のそばも美味しかったし。

神社で大吉引いた時には、「まさかだよね?」って一緒に笑った。


今日のデートは、予定通りに進んでいた。

だけど、雄介は、心の中で用意していたカードを全て切ってしまった感覚にあった。

他に思いつく所は…どこに行こうか、なんてもう他に計画していない。


このまま帰ってしまおうか。

気持ちは、まだ一緒にいたい。




“でも、どこに行けば?”





エンジンをかけると、銀杏BOYZの「baby baby」が流れる。


…永遠に…生きられるだろうか


…永遠に…君のために




…BABY BABY …BABY BABY

…抱きしめてくれ

かけがえのない愛しいひとよ…



流れるメロディーが、

自らの感情を投影しているように背中を押し続けた。



だけど、出来る事はもうない。

もう、帰るしかないか…

あと少しだけ…



離れたくないという気持ちだけが、

雄介の中で、膨らみ続けている。


そのまま押し黙って、二人のあいだに、

僅かだが、沈黙が続いた。



お店から手を繋いだ男女のカップルが目に入る。

なんだか、仲良さそうな二人だな。

と心の中で思いながら、

どんな会話をしているか想像する。


フロントガラスの向こうに見える男女

その会話は、聞くこと出来ない。


でも、楽しそうな二人の雰囲気だけは伝わってくる。

二人は、手を繋いだまま、車へと乗っていった。

 

すると、助手席に座る綾華が言った。


「この後どうする?」

綾華から問いかけに少し戸惑う。


「このあと?特には考えてないかな」

「もう一個だけ行きたい所があるだけど?」

「どこ?」


「それは、内緒。着いてからのお楽しみ」

「運転手なのに、教えてくれないの?」


綾華は、目を合わせないまま笑っていた。


雄介は、胸の高鳴りが綾華まで聞こえないように

そっと、ギアをドライブに入れて走り出した。



まだ、帰るには早い。



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恋心 一の八 @hanbag

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