第10話 おめでとうパーティ

「乗富さん、ありがとうございました」

「感謝する」

「お二方、お疲れ様でした」


 俺と天喰は、送迎をしてくれる乗富さんに感謝を伝えて車を降りる。

 そして、水無月さんや辛木さん・錦ちゃんのいる仕事場へと戻るため地下へと続く昇降機に乗る。


 今後、この昇降機にも乗り慣れることとなるのだろう。

「合格したこと伝えたらどう反応しますかね?」

「驚かないんじゃない?」

「どうして?」

「我が盟友の合格は、神の導きによって確定していたものだからだ」

「……」


 俺は、天喰の物言いに困ってしまう。この意味のわからない発言にどう返したらいいのかわからない。

 年齢から見れば、俺と天喰は同い年だから、俺が一番天喰のことを理解してあげられるのだろうが、そんな俺でも難しい。


 そんなことで悩んでいると、昇降機は俺達の仕事場がある階へと到着し、そのまま俺達2人は仕事場に入り───


「「遊翼君、適性試験の合格おめでとう〜〜!!」」

「──え?はぁ?」


 仕事場の扉を開けた瞬間、水無月さん達3人のそんな声と、クラッカーの音が鳴り響いた為に、俺は思わず驚いて声をあげてしまう。


「合格すると思ってたから、驚きはないけどね。嬉しいものは嬉しい」

 水無月さんはそう口にすると、手を叩く。すると、錦ちゃんがホールケーキを持ってきた。


「ケーキまで……」

「夜宵ちゃんから合格のメッセージを貰って、すぐに用意したよ。ほら、皆で食べよう」

「え、辛木さんは?」

「米好きだろうとウドンも食べる。辛党だからって甘いケーキが食べれない訳じゃない」

「好きじゃないけどな」


 辛木さんは、無愛想な顔をしてタバスコを飲みながら、そんなことを口にする。

 基本的に辛いものしか食べないが、こう言う時は皆に合わせるようだった。


「ほら、今はタバスコ没収」

「あ、おい!」

「かけるつもりでしょ?駄目だから」

「ッチ」


 水無月さんは、辛木さんからタバスコの瓶を5本10本、15本──全部で17本も奪い取る。

 17本も仕込んでいる辛木さんも辛木さんだ。辛党の域を超えている。


「ほら、遊翼君もボサッとしてないで。今日は君が主役なんだから」

「あ、はい。すみません」

 俺は、水無月さんから切り分けられたケーキとフォークを貰う。それで、全員に配られるのを待った。そして──


「それじゃ、今日は遊翼君の適性試験の合格、及び私達の班に配属決定をお祝いして、おめでとうパーティーを開始します!おめでとう!」

 皆、どちらかの手にケーキを持っているので拍手はないけど、俺は配属決定を祝われる。


「それじゃあ早速、ケーキを食べよう」

 俺達は、8等分されたイチゴのショートケーキの、一切れを食べる。


「──うん、美味しい」

「甘ったるい……」

「まぁまぁ、そんなこと言わずにさ」


 甘いケーキを、不服そうにしながらも食べる辛木さん。そして、その後ろで静かにケーキを丸呑みにする錦ちゃん。


「えぇ、丸呑み……」

「錦ちゃん、またクリームが付いてるよ」

「……ん。ありがとう、ございます」

 水無月さんは、ケーキを丸呑みする錦ちゃんのことを何もツッコまない。ということは、それが当たり前なのだ。


「はー、甘かったぜ。んじゃ、お口直しに」

 辛木さんはそう口にすると、左右両方の手で器用にタバスコの蓋を開けて、その2本の中身を一気に口の中へと流し込んだ。見ているだけで、口の中が痛くなるその行為を見て、俺はケーキを食べる手が止まる。


「どうだ?変人の巣窟の片鱗は。これから、こんなのと仕事をしてこんなのと戦っていくんだぞ?」

「もう既に心が折れそうだよ……」


 俺は、未来の自分がこんな風に変になっていないか不安になりながら、ケーキを食べた。

 そして、残った3切れのケーキを誰が食べるかで辛木さんを除いた4人で争うなどして、主役のはずの俺が負けた──などと言う一悶着がありつつも、俺のおめでとうパーティーは幕を閉じる。


 そして──


「あ、そうそう。錦ちゃんには先に伝えておいたんだけど、夜宵ちゃんと遊翼君には伝えてなかったね」

 口を開くのは、水無月さん。先程のようなお祝いムードから一転、真面目なムードに変わる。


「私と辛木君の2人、一週間謹慎処分になっちゃったから、明日からの一週間は夜宵ちゃんと遊翼君・錦ちゃんの3人に任せることにしました」

「──え?」

「どうしてですか?」


「遊翼君。君の学校での事件を止められなかったからだ。まぁ、10人以上殺させちゃったら謹慎処分になるよね」

「そんな……」


「んま、お前の学校みたいな大惨事はほとんど起こらないし、起こらせちゃいけないものだと思え。あそこまでひどくなるような現場はほぼねぇよ」

 辛木さんが、そう口にする。やはり、素人目にみてもマズいであろうあの事件は、当たり前なわけでは無かったようだ。


「──それで、我ら盟友だけで一週間任務を行うのか?」

「うん、そうなるね。まぁ、緊急のものがない限り、次の仕事は3日後だ」

「それまでは、遊翼関連の事務作業になるだろうよ」

「私達は現場に出れないだけでここには居られるから。現場でだけ頑張ってね」

「は、はい……」

 水無月さんと辛木さんの年長の両名が、早速動けない状況になり不安が隠せない。


「そうだ、予定だと任務は2つあるから、遊翼と錦ちゃんのペア。それと、夜宵ちゃん単独で動いてもらうよ」

 天喰が単独で行動しても大丈夫なのか──とか、俺と錦ちゃんはまだそこまで親しくないからちゃんとやっていけるのか──とか、色々と不安要素は多いけれども時間は残酷に進んでいく。

 2日連続で面倒な事務仕事を終わらせた後に、俺にとっての初仕事がやってくる。それは───



「──今回の任務を発表する。1つ目は、フォークの【中毒者ホリッカー】、肉叉笹宗にくさささむねの逮捕。そして、2つ目がウニの【中毒者ホリッカー】、雲隠牡丹くもがくれぼたんの逮捕だ」






 

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