第七夜(Ⅱ)

「どういう……どういうことだ、ユージン!」

「どうもこうもありませんよ。私は一度もユリアーナが死んだとは言っていませんから」


トバイアスは10日間の記憶を浚った。確かに、ユージンは一度も亡くなったユリアーナ、や、亡き王妃、と言っていない。

ただ、ユリアーナと呼んでいた。


「なんでお前がユリアーナに従うんだ!」

「何故って、あなたたちがグリーンハルシュ嬢に尽くすのと同じ理由だよ」


言って、ユージンはユリアーナに蕩けるような視線を向けた。嘘だろ、誰かが呟いた声が会場に落ちる。


「その台詞は私のものじゃないかな。いくら妻以外の相手に想いを寄せているのだとしても、ユリアーナに対するあなたたちの態度は度が過ぎている。ユリアーナが王妃であることを――自分達の頭に王冠を載せた存在であると、理解した態度とは思えない」

「……っ!」

「ねぇ、トバイアス。わたくしは沢山、あなたにヒントをあげたつもりよ」


謎かけも、消えたことも、北の離宮の管理人も、私の本のことも、全てはヒントとなったはず、とユリアーナは言う。


「どうして気付かなかったのかと考えてみたけれど、やっぱり行き着く先はいつも同じなのよね。あなたは、ずっとずっと、マーガレットしか見ていない。一年前のあの時も同じ。王妃のわたくしよりも、マーガレットの治療を優先した」

「あれは仕方がなかった! 私はお前から何も話を聞いてな」


ユリアーナはトバイアスの話を遮り淡々と続けた。


「あの時、他ならぬあなたたちが動いたことで、貴族の統率が取れなくなった。医師の殆どがマーガレットの治療に向かい、わたくしの治療は後回しにされた」

「だから、それは」

「――結果的に、わたくしは流産した」


その場のほぼ全員の瞳に、驚愕が浮かんだ。バレないようにしたかったのに、とトバイアスはほぞを噛む。


「貴族の皆が知らぬのも無理はないこと。何しろ国王陛下は従妹姫の妊娠に浮かれ、わたくしと話す暇もなかったようだから。国王陛下が知らぬまま知らせることもできず、黙っていた」

「サザランドにいた我々は知っていたのだがね」

「ふふ、父上たちに知らせるのは別ですもの」


小さく笑みを浮かべてから、ユリアーナは貴族たちに視線を戻す。


「小さな命は生まれることなく散ってしまった。わたくしが死ぬのならばまだしも、子の命が散ってしまったことは、許せなかった」

「お姉様/ユーリが死ぬのも重罪でして/だよ」


オリヴィアとユージンが声をそろえた。両隣の妹と夫を見遣り、ユリアーナは微笑む。


「だからこそ、こうして場を整えた。裏切者を断罪するために」


紅の唇が弧を描く。笑みさえ浮かべて、ユリアーナは言い放った。


「先程から顔色が悪くてよ―――ウォルポール侯。そして、第三国王ジェレミー」

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