第18話

さっさとお湯を沸かし始める花園様だった。先程のお店で買ったインスタントコーヒーを持って花園様のところに行く。

「へえ、これを買ってきたんだ。美味しかった?」

「とても、美味しかったです」

そんなことを話ながらお湯が沸くのを待つ。その間に花園様がテキパキとコーヒーカップにインスタントコーヒーを入れていく。そのうちにお湯も沸いたようでコーヒーのいい匂いがし始めた。

 「うん、美味しいね」

あの店で飲んだコーヒーには少しだけ劣るような気がするがそれでも十分美味しかった。こんなものが毎日、家で飲めるのはとても嬉しい。

「そういえば、どこのお店に行ってきたの?」

「喫茶店と花屋……」

そんな話をしていて思い出した。席を立ち鞄を取りに行く。雑貨屋で買ったあるものを持って席に戻る。花園様は「急にどうした」とでも謂いたそうな顔をして不思議そうだった。

「……これお土産です」

そう言ってそれを渡した。俺が花園様に選んだものはヘアピンだった。白い羽に見立てた装飾が施されてあるものだ。

 受け取った花園様はとびきりの笑顔で言った。

「ありがとう。すごく嬉しい……いいの?本当に貰って」

「はい、良かったら」

少しだけ恥ずかしくて目をそらす。花園様はそのヘアピンを前髪の辺りに着けていた。その間もニコニコとしており上機嫌だった。

 鏡を見てきたらしい花園様がこちらに向かってくる。

「どう?似合う?」

そんな真正面から顔を近づけられると恥ずかしい。静かに首だけを縦に動かした。その様子を見た花園様が悪い顔で笑う。

「玄兎……一人に決めないとだよ?はっきりしない男じゃダメなんだから。思わせ振りなのも良くないからね?」

「だから違うって言っていますよね?」

コーヒーを飲んでいい気分だったのに一瞬で壊れた。まだそんなことを言うかと呆れてしまう。一人も何も陽和は好きとかではない。恋愛感情はないのだ。それを何度言えばいいのだろう。


「やっぱり、女の子としては一途で、前を歩いてくれるような安心と優しさがあるような人がいいからね」

「……」

頬に両手を当てて目をつぶりながらそんな妄想を膨らませている花園様だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る