第16話

ホテルの中に入るとちょうど花園様がいた。

「玄兎、お帰り……て九重さんと一緒だったんだね」

「そうなんだよ、ちょうど市場で会ってね」

先程の話が頭から抜けていなくてうまく顔を作れない。しかし、九重はにこやかに笑い何事もなかったように振る舞っていた。

「玄兎は?楽しかった?」

そんなことを聞かれる。あわてて笑顔を作ってから答える。

「はい、とても楽しかったです」

九重と会ってしまったのは計算外だったが一人で町を歩くのも悪くはなかった。

「あの、もし良かったらなのですが陽和のところに行ってもいいですか?」

俺と花園様がいる部屋の隣の部屋だ。そこでいまでも眠り続けている。


「もちろんいいよ。行っておいで」

そう言われてその部屋に向かう。少し床が軋む音を立てながらその部屋に向かった。

 ノックをしてから入る。もちろん返事なんて帰ってこない。まだ、目を覚ましていないからだ。静かな部屋に一人で入って声をかける。

「陽和、今日は町に行ってきたよ。それでこれを見せてあげようと思ってね」

そう声をかけながら花瓶を用意する。陽和のために買ってきたのはガーベラという花だ。


花のように笑って周囲の人に元気を与えていた陽和みたいだと思ったのだ。その中でも白いガーベラを買った。

「ガーベラの花言葉は前向き、常に前進。白いガーベラには希望という花言葉があるんだよ」


包帯のせいで彼女が安らかな顔をしているのかすらも分からない。俺が彼女の優しさを受け入れてしまったからその身を焼かれてしまった。優しい彼女には俺みたいな奴は関わるべきではなかったのだ。


そんな後悔があの火事の日から離れない。俺は一人でよかった。寒くても孤独でも、俺の中には明確に大切なものがあってそれさえ守れればよかった。なのに、それ以上を望んでしまった俺の愚かさが招いた結果だった。

「……本当に……ごめん」

 動かない彼女の手を握る。包帯越しに分かる生きている温度。彼女はまだ生きているんだ。生きようと必死な彼女が俺の諦めない理由の一つだった。


目が覚めたら「ありがとうとごめん」としっかりと言いたい。だから早く目覚めてほしい。こんなにも大切なものがある俺を許してほしい。



陽和のお陰て前を向いていられる感謝を伝えてその部屋を後にした。

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