第14話

財布と一緒に渡された地図を見ながら歩く。この辺は始めてきたので道が全く分からない。町並みは少しだけ馴染みがあって、俺が最初にいたところとあまり変わらない。


地面はレンガで固められて、いつかに見たフランスという国に似ているような気がする。地図を見て歩くこと二十分。市場と呼ばれるところについた。

 そこは忙しなく人が歩いていてとても賑やかだった。にこやかに笑いながら談笑する人、お店の売り物の宣伝をする人、家事をする人。


様々の人が幸せそうに懸命に生きている光景が何となく羨ましくて、美しいと思ってしまった。自分の過去の反対の光景に憧れているのかもしれない。そう思いながら市場を歩いてみる。

 花園様が十万円ぐらいくれたわけだが、特にほしいものもない。


目的もなく歩く。

 市場は色んなものを売っていた。フルーツ、野菜、洋服、花など様々だった。見たことがないものばかりで、キョロキョロしてしまう。まだ、知らないことが沢山あるのだなと漠然と思う。


そして、一つの雑貨屋らしきところで足を止めた。


見つけた「それ」を持って店の管理をしている人に話しかける。

「すいません、これください」

代金を支払い商品を受けとる。大事に鞄に入れてフラフラと歩く。いいものが買えたかもしれないと少し嬉しい。気が向くまま、歩いているといい匂いがしてきた。


鼻から入ったこの匂いはほっとする匂いで、少しだけ苦いような気がする。匂いにつられて歩いていくとそこでは何かをティーカップで飲んでいるようだった。何となく店の中に入る。

 「いらっしゃいませ、一名様でよろしいですか?」

「えっと、はい」

店員に連れられて、一つの席に着く。店の中は外よりもいい匂いがして、自然と笑みを作る。心が和らぐ匂いに気分を上昇させながら座ると店員がメニューをくれた。


ここに書いてあるものを選んで注文するらしい。

 しかし、始めてこんな場所に来たので何を選んだらいいか全く分からない。この匂いもなんなのか分からないし。迷った挙げ句、店員に訪ねることにした。

「……オススメはありますか?」


「当店のオススメはブレンドコーヒーになります。食べ物でしたらシフォンケーキが人気ですよ」

ニコニコと笑う店員に緊張をした声でオススメを注文した。自分が何を頼んだのかさっぱり分からないが人気があるのならばきっと大丈夫だろう。そう言い聞かせて自分を落ち着かせる。何となく辺りを見渡す。


角に置かれた観葉植物や飾られた絵。これらが建物の雰囲気を作り出していて、なんとも心地が良い空間だった。店内を一通り見回して十分ぐらいが過ぎた。すると、先程の店員が御盆に注文をしたものを乗せて歩いてきた。

 「失礼します。ブレンドコーヒーとシフォンケーキになります。ごゆっくり」

そう言って去っていった。自分の目の前に置かれた物を見る。それは白いカップに入った飲み物だった。先程のから感じていた少しほろ苦い匂いがする。


白い湯気を立ち上らせるそれがとても美味しそうだった。そっとカップを手に持ち口へと運ぶ。

 それはとても美味しかった。苦味のなかにある深い味が何とも癖になる。体にこの味が広がっていくのが分かる。それは優しい味でとても安心ができた。


ふと、横に置かれたお皿に目が行く。黄色いスポンジに白いクリームがかけられていた。おそらくケーキの類いだろうと思いフォークで少し切り取って食べる。シフォンケーキと呼ばれたそれはとてもふわふわしていてほんのり甘い。コーヒーととても合う。


それぞれ食べ終わるまでそんなに時間は掛からなかった。可能ならば花園様と一緒に来たいと思う。こんなに美味しいものがあるのだと知らなかった。それから一息着いてからレジに向かった。

 レジでお金を払い会計をしていると店員に話しかけられた。

「コーヒー、美味しかったでしょうか?」


「あっはい……すごく美味しかったです」


本当に美味しくてその喜びを言葉にしようと思ったがうまく出来なかった。なんて言葉にしようかいい淀んでいるとにこやかに店員が言う。


「当店ではインスタントコーヒーもあります。もし良かったらいかがですか?」


そう言われて家での淹れ方を教えてもらいインスタントコーヒーを買った。

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