第8話

その後、捕まえた男性を連れて屋敷へと帰ってきていた。男性は拘束されたままで事情を聞いていた。


「なんで、あの村を焼いたの?」


「……それが命令だから」


「誰の?」


「……我々がやるべき宿命……人々を抹殺する……」



二時間前からずっと同じことを繰り返している男性。意志疎通ができず、虚ろな目でこちらを見ている。花園様が何を聞いても先程のようなことを話すばかりだった。


「これはダメだな。あとは担当者に任せるか」

そう言って俺たちはその部屋を出た。そして、しばらく歩き一つの質問をする。


「さっき言っていた担当者って……?」


「ああ、私を拾ってくれた人。上司みたいな感じかな」


拾ってくれた人と言う単語が引っ掛かる。この豪邸を見る限り、俺と同じような生活をしていたとはおもえない。俺のそんな表情に気がついたのか花園様が話し出す。


「せっかくだから話しておこうかな。少し私の部屋で話そう」


 そのまま、花園様の部屋に向かった。その部屋はとてもシンプルで最低限の家具があるだけだった。タンスやベット、ちょっとした棚がある程度で寂しい部屋だ。



「何にもないだろう?こだわりが無いというか、興味がなくてね」


「……そういうものですか」


軽く流して、近くの椅子に腰かける。花園様が紅茶というものを淹れてくれてそれを口にする。



 それはとても暖かくていい匂いがする。綺麗な色をしていて心が安らぐような気がした。


「気に入ったか?」


自分の心の声が表情から漏れていたことが恥ずかしい。少し花園様と紅茶から目を逸らして頷く。


「あとで淹れ方を教えよう。紅茶も玄兎の部屋に届けさせる」


微笑みながら水樹様は言う。本当に優しい人なんだなと思う。そしてもう一度紅茶を一口飲んで花園様に向き直る。


「なんでだろうね。玄兎にこんな話を聞いてほしいと思ったのは……私と似ているからかな」

「似ていますか?」


そう尋ねるとゆっくりと頷いた。花園様ように俺は優しくなんか無いし、強いわけでもない。やりたいことも、守りたいものも失ってきた。似ているところなんて少しも無い。俺は彼女ほど強くはなれないのだ。


 「少し昔話をしよう」


そう言って花園様は紅茶を眺めながら話し始めた。



 いつからか分からないが私はそこにいた。冷たくて硬いレンガ造りの暗い道の上に座っていた。


寒くてお腹がすいていた。なんでここにいるのかも、ここがどこなのかも分からなかった。私にはそこに来た経緯が分からなかった。


忘れたのか、そもそも経緯なんて無かったのか私は知らないし興味もない。


 でもなんとなく、周りが見てみたくなって歩きだした。すると日向に出て、暖かいところだった。綺麗な服を着た人が忙しなく歩いていた。


見たことがない景色に心が踊って歩き回った。しかし、夢中になりすぎて人とぶつかった。私はすぐに謝ろうとしたが腹部に強烈な痛みを感じ声すらも出せなかった。


その後も、黒い靴を履いた足は天から降り注いだ。何か罵声を浴びせられたような気がする。でも、そんな声も聞こえなくて視界が歪んだ。


そして、体の小さかった私はそこで死んだ。そこで終わったはずだったのに体が揺られる感覚で目を覚ます。するとそこには不思議な笑顔の男性がいたのだ。私の体を抱えているらしく揺れはその男性が歩いていることを示していた。


「おや、起きたのか。痛むところはあるかな?」


そう聞かれて横に首を降った。あれほど殴られたのに痛みは少しも無かった。自分の体を眺めて怪我一つしていないことに気がつく。私が困惑しているとその男性が話しかけてくる。


「君は能力持ちだ。不死身の力を持っている。だから僕のところに来るといい」


そう言われて、名前も家も服も全て与えられた。そしてこの世界のことを知り、私は平和を願った。私のように自我がある能力持ちならいいのだがそうではないものもいる。


それを知った私は止めたいと思った。その人たちを救いたいと思った。だから、私は花園小雪としてここで生きているのだった。


 軽くまとめて昔の話をしていた。話を終え、玄兎に向き直る。急に知りもしない女の話をしても反応に困るだろうなとは思う。そんなことを思いながら玄兎の顔を伺う。そしてビックリした。


「えっ?どうしたの……玄兎、大丈夫?」


流石に心配してしまう。何故か、彼は静かに泣いていたのだ。そんな、泣くような話だったわけではない。それなのに、泣いている玄兎を見て慌ててしまう。


「私、何か嫌なこと言っちゃった?それならごめんね?」


「……いえ、何でもないです」


そんなことを言いながら、涙を拭う玄兎。何でもなさそうだと思いながら私も少しだけ慌ててしまう。似たような境遇で思うところがあったというところだろうか。しばらくすると玄兎も泣き止み部屋を出ていった。


 あとで、メイドに紅茶を届けさせようと思いながら、私は作業にとりかかるのだった。


 花園様の話を聞いて思わつ取り乱してしまった。少しだけ目を擦りながら廊下を歩き、自分の部屋を目指す。


すると長い廊下の先に人影が見えた。長い髪を軽く束ねた中性的な人だった。整った容姿になびくコートが印象的だった。ここのメイドといった感じではなかった。会釈ぐらいはした方がいいのかと思い、軽く頭を下げる。するとその人はこちらに気がつき声をかけてきた。


「君は、もしかして七草玄兎君?」


「えっと……そうですけど」


俺のことを知っているようだが誰だか検討もつかない。不思議に思っているとその人は慌てて自己紹介を始めた。


「急にビックリさせてしまったね。僕は、九重 蓮《ここのえ れん》だ。よろしく、七草君」


そう言って去っていった。笑顔でそう言われたが漠然と九重と名乗る彼のことが嫌いだなと思ってしまった。




そして良そうでしかないのだが、花園様を救った人は九重なのだろうと思う。

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