第6話
花園小雪に出会ってから、一週間が過ぎた。その間、とても不思議だった。最新の医療がありメイドの方が看病してくれていた。
花園小雪は何やら忙しいようで顔を合わせることはなかった。俺がいるこの屋敷は花園の持ち物のようで高い位についていることが伺える。
三食、しっかりとご飯を食べたのも久しぶりだったし驚かされてばかりだった。ただ、ぼんやりと天気のいい外の景色を見ているとドアの方からノックが聞こえてきた。メイドの方だろうか。
そんなことを考えているとドアが開きその正体がすぐにわかった。
「調子はどうかな?」
「……お陰様で」
花園小雪が入ってきたのだ。ちょうど話したいことがあったのでよかった。
「そう言えばなのだけど、名前を聞いていなかったなと思ってね」
出会いが出会いだったため名乗っていなかったかもしれない。そんなことを思い返す。
「七草玄兎です」
「じゃあ、玄兎でいいね。私のことは花園様とでも呼んでくれると助かる。一応この家の主人だからね」
呼び方は従うしかないだろうと思う。一応、助けられて保護をしてもらった身だ。そして、花園様の目的がまだ分からないのがずっと疑問だった。なぜ、俺を助けたのか。俺を助けるメリットがあまりにもないのだ。この一週間、色々な事を考えたのだが何を考えているのかさっぱり分からなかった。
「まあ、お喋りはこのぐらいで本題にいこうか」
そう言って花園様は話を切り出した。
「何で、私が玄兎を拾ったと思う?」
「……分かりません」
これに関しては本当に分からなかった。その答えをいつか聞こうと思っていたのだ。
「君が少し異常だからだよ。これは憶測でしかないが能力持ちだろう?」
能力持ちと言う単語にあまり馴染みがなかった。どこかで聞いた気がするがピント来ない。花園様が説明をしてくれた。
能力持ちとはこの世界で数人見られる現象だそうだ。その発生源は解明できないらしい。能力は人それぞれで種類も沢山あるようだった。そして能力持ちのほとんどが精神に異常があり、町を破壊していくのだと言う。
「でも、俺はそんな力を使えないし精神も……」
別に精神を壊している自覚はない。自覚がないだけなのかもしれないので自信をもって言えないのが悲しい。
「たぶん、無自覚のうちに使っていると思うよ。そして、私も能力持ちだ」
「えっ」
目を丸くする。ついさっき、世界でも数が少ないと言われたばかりだ。それなのに俺を含めるとこの場に二人もいることになる。
「だから玄兎を拾ったの。そしてこれだけ自我があって精神が安定しているのも珍しいからね」
「そうですか……花園様の目的は何ですか?俺が能力持ちだったとしても何をさせる気ですか?」
なぜ、能力持ちにそれほど詳しく何が目的で俺を拾う必要があったのだろうか。
「私は、町を……平和や幸せを壊すような人が嫌いでね。だから、復讐に近いのかもしれないね」
そんなことを笑顔で言っていた。なるほど、復讐か。なんとなく、納得がいく答えだなと思う。花園小雪は何か底が知れないような気がする。会ってからそんなに時間が経っていないが笑顔が嘘のように思える。
「どうしたの?何か考え事でもしている感じかな」
「ああ、いえ」
つい考え込んでしまった。不審に思った花園様が声を掛けてきた。
「まあ、そういうことで協力してもらうからね」
そう言って手を掴まれる。その手に目をやる。とても華奢な手で暖かい。
「早速で悪いけど、この屋敷を案内しようかなと思ってね」
そう言われて花園様が案内をしてくれる。思ったよりも大きい屋敷のようだった。病室から出たことがなかったため始めてみる光景だ。
洋館の作りで、仕事中のメイドと何度もすれ違う。今まで見たことがない景色に驚きながら、辺りを見回す。花園様は淡々と案内をしていく。
ここはいろんな施設が集まっているようで食堂や医務室など沢山の部屋があった。どれだけの敷地があるのだろうと思ってしう。少なくとも俺だけで歩いたら迷ってしまうだろう。そう思ってしまうほどだった。
そして、花園様が一つの部屋の前で立ち止まった。
「ここは……入院している人がいる。桜田陽和もここで寝ているよ」
そう言ってそのドアを開けた。そこは真っ白な部屋で消毒の匂いがする。心地よい風が吹いていて一人の少女が横になっていた。ゆっくりと歩を進めて彼女に近寄る。
「まだ、意識は戻っていない。でも生きているよ」
そんな声が背中から聞こえた。音を立てないように確実に前に進む。そこにいた陽和は変わり果てた姿だった。全身に包帯を巻き、かろうじて生きてる状態だ。近くの機械と細い管で繋がっている陽和を見る。
俺と関わらなければ、こんな姿にはならなかった。その眩しい笑顔を焼くこともなかった。ただ、申し訳なくて悔しい。あんな男に小さな輝きを奪われたことが腹立たしくて仕方がない。こんな理不尽が許せなくて拳を握る。
花園様が復讐と言う言葉を口にした意味が分かった気がする。
そして、病室を後にする。色んな部屋を見て歩くと花園様に声をかけられた。
「あまり聞かない方がいいのかもしれないが、両親は亡くなったのか?」
「さあ、分からないです。気がついたときにはあの町にいたので」
正直に答える。どうしてあまり聞かない方がいいのか分からなかったがそういうものなのだろうと追及はしなかった。そのまま屋敷を歩き続ける。再び花園様が足を止める。
「玄兎にはここで過ごしてもらう。ここが君の部屋だ」
そう言って見せてくれた。清潔なベットに外がみえる窓。心地のよい空気が流れる部屋。暖かみのある空間だった。こんな部屋にこれから毎日俺がいてもいいのだろうか。こんな生活をしたことがなく唖然とする。
「何か、足りないものがあったら言ってくれ。可能な限り用意するよ」
「……いえ。十分すぎです」
段ボールを被って生活をしてきた俺としては屋根の下にいれるだけでもありがたい。
「拳銃から蟻でもなんでもいいよ」
「蟻?なんか例えが……すごいですね」
「あはは、玄兎は面白いね。ちゃんとツッコミしてくれるんだ」
そう言いながら花園様が笑う。あまりにも例えが変だったので言っただけなのだが、気に入られたようだった。
花園様が笑うと安心できる気がする。
何の希望もなくて絶望をしていた俺がこんなにいい方向へと向かっている。
本当に神様がいるのなら少しだけ感謝しないとな思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます