第8話

花園 小雪 視点

 ダンスに誘うため玄兎の目を見て話す。彼の方が背が高いので見上げる。すると彼はすでにこちらを見ていた。


その瞬間、心臓が跳ねる。いつの間にか日が沈んできていて夕日が辺りを照らしていて薄暗い。そんな雰囲気がより表情を分からなくする。火照った顔も見えないように願う。


急なことに驚いて言葉がでなくなってしまった。ただ、一言言えればいいだけなのに。すると玄兎が口を開いた。

「花園様、俺と踊りませんか」

「えっ?」

思いもよらない言葉にさらに驚く。変な声が出てしまったことが恥ずかしい。私の返事を待たずに手を引いて広場の真ん中に向かっていく。その後ろ姿がかっこよくて顔が熱くなっているのが分かる。


揺れるスカートはとても可愛いのにその姿はとてもかっこいい。夕日でその表情は伺えないが彼の手も熱い。けれどもしっかりと握っている。玄兎と私が離れないために。

 そして、人混みを抜けて広場に躍り出る。他から見れば女の子が友達同士で踊っているだけに見えるのだろう。でも私には少しだけ夕日で赤くなった玄兎が目の前にいるのだ。そんな顔をされたら私の表情が隠せない。私は玄兎の気持ちを動かしたいのに私ばっかりだ。

 そんな悔しさを抱えていると音楽がなり始める。昼間とは違う楽しくも少しだけ優雅で落ち着いた音楽だ。音がなり始めると玄兎が踊り出す。


回りを見るといくつかの二人ペアになって踊っていた。玄兎にリードされる形で踊る。しっかりとした足取りで、動き方が分かっているようだった。

「玄兎……踊れたの?」

「……まあ、見よう見まねですけど」

少しだけ照れ臭そうにしながら言う。玄兎が私をリードしつつ恥ずかしそうな顔をする。そんな中私はその時間が楽しすぎて、幸せすぎてどうしたらいいか分からなくなっていた。


顔が先程から熱くてしかたがない。玄兎も顔は少しだけ赤いが私に微笑みかけ踊っていた。その余裕そうな顔を本当は崩したかったなと思う。

 そんな時間がどれだけ過ぎたのだろうか。いるの間にか音楽は鳴り止んで私たちは帰路についていた。イベント会場を出ると途端に静かになって、遠くで余韻に浸っている声が聞こえていた。


彼は先程からこちらを見ない。私も今の顔を見られまいと玄兎とは反対側を見て歩く。お互い、何も話さない。ハロウィンのノリで踊ったが普段はそんな大胆な行動をしない玄兎。少しは私のことを見てくれただろうか。


私ばかりが好きだと思ってしまっている気がしてならないのだ。

 沈黙が二人を支配して回りの木々が揺れる音が少しだけ聞こえた。そんな中、玄兎が話し出す。

「今日は楽しかったです。ありがとうございました」

「うん、私も楽しかった。玄兎も沢山甘いものが食べられて良かったね」


できるだけ平然を演じる。実際のところは心臓がうるさくて体温が夜風に当たっても下がらない。それらがバレないように心から願いながら歩いた。

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