第5話
花園 小雪 視点
急に後ろドアが開いて少しだけ驚く。慌てて振り向き距離を取る。そこには不満そうな玄兎がいた。
「はあ、これで満足ですか?花園様」
そんなことを顔をしかめて言っている。しかし、その姿だけで言えば。
「えっ想定よりもかわいい。すごく似合ってるよ、玄兎」
「嫌味ですか?花園様。とりあえず、中に入ってください。メイドの人に見られたら恥ずかしいので」
ほんのり顔を赤らめながらそんなことを言う。私は玄兎の部屋の中に入り改めてその姿を観察した。顔もスタイルもいい彼がスカートをはいているわけだが、なんとも可愛らしかった。
肩出しの服を着ており見える肌は真っ白。細い腕も足も華奢な女の子を演出している。首もとの十字架のチョーカー、紫の軽いフリルの洋服。腰に巻いたリボン、ふんわりとしたスカートが揺れる。
黒に紫のメッシュが入ったウィッグを押さえるようにした小悪魔の角。どこから見てもかわいらしい女の子だった。
「あの、あんまり見ないでもらえます?脱ぎたいのですが……」
袖で顔を隠してそんなことを言う。しかし、隠していても耳まで真っ赤なのは良く分かった。そんな仕草までもが私の視線を奪っていく。
しかし、私ばかりがキュンとしていてはダメなのだ。私は彼にこの気持ちに気がついて欲しい。彼に私を好きになって欲しいのだ。
「イタズラなんだから脱いじゃだめだよ。せっかくなんだからメイクもしよう。そのまま街に行くよ」
「冗談ですよね?男がこんな格好してたら笑われますよ」
「大丈夫、今は男に見えないしね。かわいい女の子だよ」
そう言って玄兎を椅子に座らせて軽いメイクをする。不満そうにしているがたまには私が玄兎を振り回したいのだ。今日はハロウィンなのだから私に付き合ってもらおう。
そして、玄兎のメイクを終わらせて私も着替える。ちなみに私は彼とお揃いの小悪魔の仮装だ。私が着替えている間、玄兎は廊下で待っている。
着替え終えて部屋を出ようとすると話し声が聞こえた。思わず聞き耳を立てる。
「花園様のお客様でしょうか?迷われてしまいましたか?」
「えっと……」
どうやら、部屋の前で待っていた玄兎がメイドの一人に客だと間違われているようだ。玄兎も自分が玄兎であるとバレたくないだろうし、言いよどんでいるようだった。仕方なく部屋を出る。
「私の客人の相手をしてくれていたのね。ありがとう。私はこの子と少しだけ出てくるから」
そう言って廊下を歩く。メイドは私たちに一礼をして仕事に戻っていった。
「花園様、助かりました」
「いいよ。でも、メイクもしているし話しても玄兎だって分からないと思うよ?」
「……それは、それで複雑です」
そう言いつつもちゃんと衣装を着て私についてきてくれるのだよね。優しいのだろう。何だかんだで私に付き合ってくれる。
「ああ、そうだ。これをあげるね」
そう言って飴を渡す。棒のついたハートの形の飴だ。
「何ですか?」
「飴って言うお菓子だよ。私はお菓子をあげたんだからイタズラしないでね」
仕返し対策のようなものだ。飴を受け取った玄兎はまた不満そうにしていたがハロウィンのルールだ。
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