第3話

そして、当日がやってきた。街のイベントでは仮装した人で踊ったり、お菓子を交換したり、カボチャのランタンを作ったりするのだ。


そのために玄兎に仮装をしてもらう。もちろん、ただの仮装ではない。イタズラをするためだ。その衣装が入った箱を持って玄兎の部屋に向かう。その間も笑いが止まらなかった。


 すれ違うメイドに心配そうな眼差しを向けられるが気がつかなかったことにしよう。玄兎の部屋の前に来て一度、深呼吸をする。ニヤついた表情を戻して中に入る。

「玄兎、ハッピーハロウィン」

「びっくりした……ハッピーハロウィン?」

一応疑問系で返してくれた。本当に少し驚いているようで目を見開いていた。そして私の作戦が始まる。

「トリックオアトリート」

「トリック……何ですか?」

やっぱり答えられない。ハロウィンのことを先日知ったぐらいだ。この決まり文句も知らないと思った。


作戦通りだと内心、嬉しくてしかたがない。疑問が浮かぶ彼の顔が面白くてかわいらしい。

「残念でした。答えられなかったね。そんな子にはイタズラだよ」



そういってその服が入った箱を手渡す。何の疑いもなく受けとる玄兎。中を開けて驚くのだろうと思うと今にも笑いだしそうだった。


「中に仮装の衣装が入っているから絶対に着てね。私は部屋の外にいるから終わったら声をかけてね」


そういって玄兎の部屋をあとにしてドアの前に立つ。絶対と念を押したし彼はあの服を着るだろう。優しい人だからそういう人なのだ。イタズラの意味もあるし、私の恋心に気がつかない鈍感にはこれくらいのお仕置きがちょうどいいだろう。


いろんな人に優しいのは素敵だけど、私にだけその優しさが向いてればいいのにと思うのは傲慢だろうか。でもそう思ってしまったのだからしかたがない。そんなことを思いながら彼の合図を待つ。

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