ハロウィンに誘いたい私
第2話
私は自分の屋敷の長い廊下を歩いていた。掃除が行き届いた綺麗な屋敷。世話しなく働くメイドたち。
外を見れば紅葉が落ちはじめて肌寒さを感じる。木々が冬の準備を始めて、すっかり蝉の声は聞こえなくなった。私の服装も長袖で少しだけ暖かいものを着ていた。
そんなことを考えながら廊下を進みとある部屋に向かっていた。やがてその扉の前に来てゆっくりと深呼吸をする。軽くノックをすると彼の声が聞こえた。
「……はい」
その返事を聞いてドアを開く。部屋の中にいたのは七草 玄兎《ななくさ げんと》だ。ひょんなことから彼を拾い、私の屋敷に住まわせている。
「玄兎、今ちょっといいかな?」
「はい。どうしましたか?花園様」
彼は私のことを花園様と呼ぶ。確かに私はこの屋敷の主なのでそう呼ぶように言った。でも、私は彼のことを玄兎と名前で呼んでいる。我が儘なのは分かっているのだがたまには私も名前で呼んで欲しい。
だって気がついてしまったのだ。彼が……玄兎がお皿を割ったメイドに優しく声をかけている時にモヤっとしてしまったこと。誰にでも優しい玄兎に惹かれると同時にモヤモヤとした良く分からない感情が混ざっているのだ。
そしてそれらを、恋心と嫉妬なのではないかと気がついてしまったのだ。私は玄兎のことが好きだし他の誰かと話さないで欲しいと思ってしまった。
そんなことを私は思っているのに玄兎はそんな様子がない。あまり表情も感情も表に出さない。私のことをどう思っていてどう感じているのか知りたい。
それは、残酷な結果かもしれないけど知りたい。それに私に恋愛感情が無かったとしても必ず振り向いてもらう。私の虜にする。そのために今日はここに来たのだ。
「なにね?町ではハロウィンのイベントが沢山やっているのだよ。だから、私たちも参加しないかなっと思って」
小説を読んでいた玄兎がこちらを向いてポカーンとしている。誘い方が強引過ぎただろうか。もう少し台詞を考えたほうが良かっただろうか。自然な流れで話せていただろうかと色々な後悔が込み上げる。
そんな不安感に襲われていると玄兎が一言。
「……ハロウィン?」
まさかとは思うがハロウィンをご存じない?
先程までの後悔と不安が驚きに変わる。そして一瞬で冷静になる。玄兎がハロウィンを知らなくても無理はないのだ。何せ、彼は親も家もないような人物だ。
それもあって私の屋敷にいるのだから教養もなにもない。文字の読み書きは出きるようだったが紅茶やケーキを始めて口にしたようだったのを思い出す。幼いときから両親や兄弟がいない彼はハロウィンに参加するどころか知識がないのだろう。そう結論付ける。
「玄兎……ハロウィンって知ってる?」
そこでわずかに恥ずかしそうな顔をした。あまり表情が豊かではない彼だがこういったところが可愛くてしかたがないのだ。
「……カボチャのイベントです……か?」
「うーん。間違ってはないけど、なんか違うかも」
ムッとした顔で言ってくる。何とか絞り出したのがカボチャのイベントなのだろうう。きっとカボチャをくりぬいて作ったランタンのことを言っているのだろう。
家の前に置いている家もあったし、見かけたことはあったようだ。ハロウィンで使うものであってはいるがカボチャのイベントかと聞かれると少しだけ違う。
なので軽くハロウィンについて教える。本来は、死後の世界の扉が開いて家族が帰ってくる日でもあるハロウィン。今では仮装したりランタンを作ったり、お菓子をもらえたりするイベントになりつつある。そんな話をする。
「仮装……ですか?」
「うん。死後の世界からきた幽霊には悪いものもいるかもしれないでしょ?だから仲間のフリをして襲われないようにしている的な感じかな」
「なるほど……そのハロウィン?に参加するんですか?」
そんなに真面目に言われると恥ずかしくなってきた。まずハロウィンを知らないとは想定外だった。
「まあ、そうだね。でもたまにはこういうのもいいでしょ?玄兎は小説ばかり読んでいるしお外に出ないと」
「……花園様がさんかするのなら。でも俺は仮装もハロウィンもやったことがないですよ?」
「大丈夫。全部私が用意してあげるから心配しないでいいよ。じゃあ、約束ね」
そういって玄兎の部屋を出る。とりあえず約束はできたしこれでいいだろう。当日までにすることは沢山あるが本人さえ了承してくれればなんとかなるのだ。
彼に何の仮装をしてもらおうかと考えると自然と口角が上がり気分がいい。手定番と言えば魔女や吸血鬼だろうか。顔が整っている彼は何を着ても似合うだろう。
そして、一つ悪い考えが思い浮かぶ。
「ハロウィンと言ったらイタズラだよね」
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