第9話

~別れとそして~


 しばらくしてお葬式の日になった。心の整理ができたかと言われたら、分からないと答えるかもしれない。でも、しっかり別れを告げるために行く。制服を着て家を出る。アパートの階段を降りると風倉がいた。


「よお、大丈夫そうか?」

「ああ、大丈夫だ。行ける。ありがとな」


風倉と歩きだす。最後のお別れをするために。


 その場所に着くと黒い服を着た人が何人かいて、その中に浅桜さんの母親がいた。一応僕らも挨拶をしようと近づく。大丈夫だ。浅桜さんともう話せないことは分かっている。


「この度は……」

「いいのよ。そんなにしっかりしようとしなくて。あなたたち二人にはとても感謝しています。鈴もきっと幸せだったから」


そう言って浅桜さんとよく似た優しい笑顔を向ける。僕は思わず浅桜さんと呼んでしまいそうになるがこらえる。


「後で主人が渡したいものがあると言っていたから、そのときはよろしくね」


そう言って言ってしまった。その後、席に着いてお葬式が始まった。お経を読み始めたりしている中でも僕の頭は浅桜さんでいっぱいだった。もう、話すことも、どこかに行くことも、一緒に登下校することも。何気ない会話で笑うことも全部もうできないのだ。彼女の名前を呼んでも返事は返ってこない。分かっているのだ。それでも会いたいと、声を聞きたいと思ってしまうんだ。きっと浅桜さんはいつまでも僕が泣いていることを望まない。浅桜さんの思いも願いも理解はできる。なのに、一緒に生きたかった、僕のことを覚えていて大切にしてくれた浅桜さんが好きだと言う気持ちが邪魔をしてうまく感情をコントロールできない。また、涙が溢れそうだ。泣かないって決めたのに。


 そんなことを思っていると僕の隣にいた風倉が肩に手をかけてきた。どうやら、式が終わったようだ。移動しようと立ち上がる。涙のせいか視界がぼやけて心なしか気分も悪い。風倉に支えられながらよろよろと歩いた。


 「湊君と涼君だね?」


そう僕らに尋ねたのは浅桜さんの父親だった。今の僕は初対面だが直感的に分かった。僕らの顔を交互に眺めてやがて話し出した。


「まずは来てくれてありがとう。きっと娘も喜んでいると思う」


深々と頭を下げられる。僕はここに来ないといけなかったんだ。ちゃんと浅桜さんにさよならとありがとうを言うために。


「鈴がもし死んでしまったら……これを二人に渡してほしいと頼まれていたんだ」


時折言葉を詰まらせながらそれを僕らに渡された。白い箱にきれいな花柄の書かれた箱だった。少しだけ重さがあった。箱には折り畳まれた紙が貼られていた。


「その箱の中身は家に帰ってから見てほしいそうだ。でも手紙はここで読んでいってほしいと言われた。もし、よかったらそうしてやってくれないか。本当に二人にはお世話になった。あの娘が笑えていたのも、精一杯生きようとおもえたのも君たちのおかげだ。本当に感謝している」


「いえ、こちらこそお世話になりました」


風倉がそう返す。その表情は辛そうで唇を噛み締めていた。僕も震える口を開く。


「僕の方こそお世話になりました。僕が笑えるようになったのも浅桜さんのおかげです。何度も……助けてもらいました。こんな僕だけど、一緒に過ごせて楽しかったんです」


なぜかそんなことを口にしていた。楽しかった。浅桜さんと出会えて、同じ時を過ごせてよかった。


 浅桜さんの父親が僕らを二人にしてくれた。だから誰もいなくなったこの場所でそれぞれ手紙を読むことにした。慎重にテープをはがして折り畳まれた紙を広げていく。すると、浅桜さんが転校してきた時と同じ女の子らしい文字が並んでいた。

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